「渡辺謙さんは篠田が監督して私も出ていた『瀬戸内少年野球団』に郷ひろみさんの弟役で出演していたので知っていました。華があってオーラがあって、この方は絶対に将来大物になると思いました。その後が政宗。ですから、『やっぱり渡辺謙さん、こういう大役をやられるようになったな』と思いました。すばらしかったです。フレッシュで素敵な政宗になっていると思いながら私も演じていました」

 そんな絢爛豪華なキャスティングの裏側で中村がもうひとつ知恵を絞ったのは、「アバンタイトル」(オープニングタイトルの前の部分)だった。ドラマの時代背景、史実をコンパクトにまとめて、視聴者が物語に入り込みやすいように工夫をこらしたのだ。

 第1回放送のアバンタイトルに政宗のドクロを映し出して、見る者を驚かせる。昭和49年、伊達家の墓所発掘で出土した政宗のドクロを撮影したニュース映像を流したのだ。そこで明らかになった政宗が“血液型B型”だったという情報も伝えて、視聴者の主人公への親近感を高めた。

 第4回のアバンタイトルは「政宗と、秀吉、家康の年齢差」というテーマ。政宗が生まれた時、すでに秀吉は31歳で信長に認められており、家康は25歳で信長との同盟を強化していた。その年齢差を、放送の前年にプロデビューした清原和博と長嶋茂雄(31歳上)、王貞治(27歳上)の年齢差に置き換えて、政宗が“20年遅れてきた武将”と言われる所以を解説した。
中村のそうした細かな配慮が視聴者に届き、年間平均視聴率が歴代最高の39.7パーセントという輝かしい記録を大河の歴史に刻んだの。

 後年、中村は「実は映画『ゴッドファーザー』をスタッフ一同で研究し、参考にしたんです。弟を殺さざるをえなかった政宗と伊達家の骨肉の争いにはマフィアの愛憎ドラマと一脈通じるものがありましたから」、と制作秘話を明かしている(SANSPO.COM)。

 崖っぷちに立たされた大河制作陣の創意工夫と時代劇を渇望していた視聴者がシンクロした“幸福な大河ドラマ”、それが「独眼竜政宗」だったのだ。(植草信和)

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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