「今日は調子が良かったのに……。こんな(とんでもない)ことは初めて。ホント、踏んだり蹴ったりですよ」(吉井)

 謎のレーザー光線は試合開始直後から何度か放たれていたようで、1回無死満塁で4番・古田が打席に立ったときも、ヘルメットに赤い光線が当たっていた。

 谷博球審も「古田の打席のとき、ストライクゾーンに親指大の赤い玉が見えた」と証言。「甲子園でも同じようなことがあったと聞いている。ゆゆしき問題。今後は絶対やめてほしい」と心ないファンの行為を戒めた。

 状況から考えて、犯人は巨人を勝たせようとしたと推測されるが、警備員120人の必死の捜索にもかかわらず、不審者は発見できずじまい。試合は犯人の思惑どおり(?)、巨人が7対6と逆転勝ちした。

 第三者の妨害という思わぬアクシデントも影響しての敗戦に、野村克也監督の口からも「いろいろな味方が巨人にはおる。巨人に勝つのは大変や……」のぼやきが飛び出した。

 しかし、そんなアクシデントにもめげず、吉井は同年、チームでは田畑一也の15勝に次ぐ自己最多の13勝を挙げ、チームの日本一に貢献している。

 グラウンド外の“敵”は、天変地異や心ないファンだけではない。

 その日に試合が行われるにもかかわらず、テレビのニュースが「中止」と放送したことから、大混乱に陥ったのが、1988年6月26日の日本ハムvs南海(大阪)と阪急vs近鉄(藤井寺)だった。

 同日のお昼のニュースでNHKテレビが「本日、大阪球場と藤井寺球場で行われる予定のプロ野球2試合が雨のため中止となりました」と放送したのが、騒動の始まりだった。

 これを聞いてビックリしたのが、主催球団の南海と近鉄。金、土曜と2日連続雨で試合が流れた後、ようやく雨も上がり、「さあ、やるぞ!」と14時開始予定の試合の準備に取りかかった直後、いきなり「雨天中止」と放送されたのだから、たまらない。まさに水を差された形だ。

 すぐさま職員がNHK大阪放送局に抗議し、訂正を要求したのは言うまでもない、これを受ける形で、NHKは12時27分ごろ、ローカル用に訂正のテロップを流したが、時すでに遅し。ニュース終了直後から、両球場や球団事務所にはファンからの問い合わせの電話が殺到して、パニック状態。NHKにも「こんなに天気が良いのに、どうして試合ができないのか」と抗議の電話が相次いだ。

 同局によれば、担当デスクが前日の試合中止のメモをそのまま書き写したことによる単純ミスが原因だという。

 最初の「中止」の放送を信じて、観戦予定をキャンセルしたファンも少なからずいたはずだから、これは本当にシャレにならない。

 この日の観客は、大阪球場が1万7千人、藤井寺球場が1万6千人。大損害にならなかったのが不幸中の幸いだったが、それでも関係者は「誤報のせいで1万人は減った」とカンカン。

 試合も南海が6対9、近鉄が0対2でともに敗れ、踏んだり蹴ったりの一日となった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら