横浜・マホームズ(当時) (c)朝日新聞社
横浜・マホームズ(当時) (c)朝日新聞社

 2018年シーズンが開幕して約1カ月が経ち、連日熱戦が繰り広げられているが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「ルールって奴は難しい編」だ。

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 ベンチの意思不統一が原因で、投手交代が無効になる珍事を招いたのが、1984年5月8日の巨人vsヤクルト(神宮)

 3対2とリードした巨人は、6回1死から中畑清の右翼線二塁打で追加点のチャンス。次打者・クロマティを迎えたところで、ヤクルト・大矢明彦コーチがマウンドに向かった。

 実は、中西太監督代行は左打者のクロマティに対し、尾花高夫から左腕・大川章に代えるつもりだった。大矢コーチもそれを告げに行ったのだが、尾花は「まだイケます」とキッパリ。「僕も大丈夫と思った」という大矢コーチが「ベンチに早く伝えなければ」と急いで戻ったことが、結果的にアダとなった。

 中西監督代行が予定どおり三浦真一郎球審に投手交代を告げたとき、「正直言って(ルールは)知らなかった」という大矢コーチはすでにファウルラインをまたいでおり、野球規則8.06により、交代が認められなくなってしまったのだ。

 続投となった尾花は、クロマティを敬遠で歩かせた後、山倉和博を遊ゴロに打ち取ったものの、幻の「交代!」コールで緊張の糸が切れたのか、2死一、三塁から投手の西本聖に右前タイムリーを浴びてしまった。結局、この失点が響き、ヤクルトは3対5で敗れた。

 試合後、中西監督代行は「大矢は早く尾花の様子を知らせたかったんやろう。向こうから来るのが見えたし、追い返せばよかったんだろうが……」と反省しきり。

 4月26日に辞任した武上四郎監督の後任としてチームを指揮していたが、この試合も含めて8連敗を喫するなど、悪い流れを断ち切れず、わずか18試合で辞任となった。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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