1987年に来日した現役大リーガー・ホーナー(ヤクルト)は、打った瞬間に本塁打とわかる豪快なアーチを連発。“赤鬼”の異名をとり、ブームを巻き起こした。

 そんなホーナーも、同年6月2日の巨人戦(神宮)では、思わず「エ~ッ、そんなのあり?」と目が点になるような珍本塁打を記録している。

 1点を追うヤクルトは8回、先頭のホーナーが鹿取義隆の初球をレフトに打ち上げたが、明らかに打ち損じ。平凡な左飛と思われた。

 ところが、詰まりながらも左翼フェンスギリギリまで伸びた打球は、フェンスのわずか手前に落下し、ここから“世にも不思議な物語”が幕を開ける。

 ジャンプしながら捕球を試みたレフト・松本匡史のグラブに当たって大きくバウンドしたボールがスタンドに飛び込んでしまったのだ。“バックトス”同点ホームランである。

 そして、この一発はホーナーにとって、26打席ぶりの8号になった。この日は先発・江川卓に3打席連続三振に打ち取られていただけに、「詰まっていたし、入るとは思わなかった。ベリーラッキー。女房と子供が来日した日に打てたのもラッキーだった」と大喜びだった。

 一方、期せずして本塁打をアシストする“世紀の珍プレー”を演じてしまった松本は「グラブの先っぽのほうに当たって入った…。バレーボールのバックトス?そうだね」と終始口が重かった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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