ペス山:友達にも2人いるんです。あと読者からも「私も女性の身体が嫌なんです」という感想をいただきました。女性でも自分の身体が嫌で、自分の身体を脱ぎたいという人はいるんだなと思いました。私の性自認が男性寄りなのも、果たして最初からなのか。女性である自分の身体が嫌だから男性寄りになっているのか。そこはわからないんです。

こだま:ペス山さんの場合、マゾヒストという性嗜好が入ってきて、さらに複雑に絡みあっているタイプですよね。それでも作品を出すことで、同じような悩みの方に届くんだろうなぁと思いました。

ペス山:そうなんですよ。自分の性自認について描いた9話、10話を公開するときは本当に緊張して「悩みが複雑なので読むのやめる」なんて感想がきたら、自分は血反吐を吐いて死んでしまうと思ったんです(笑)。でも共有してくれる人がいる。私は描くことで「自分は誰かにわかってほしかったんだ、実は寂しかったんだ」ということがわかりました。

こだま:私は、夫と二人ならいいんですけど、「世間」が加わると、自分は普通じゃないんだと思ってしまいます。子供もいないし、それどころか夫とセックスもできない。親からも早く子供を産まないのか、と頻繁に言われていました。どうしても、普通じゃない自分を意識させられるというか……。

ペス山:私も祖母から「結婚して子供を産まないと人間として生まれてきた価値がないんだよね」と普通に言われます。優しいおばあちゃんで好きなんですけど、ぽろっと言われると傷つくんですよね。

こだま:きっと「正義」で言っているんですよね。だから悪気もない。彼女たちは自分とは違って、それが当たり前だという価値観で育ってきたと思うことで、私は納得しています。本を出したことで、自分と同じようなタイプが世の中には確かにいるとわかって、普通じゃない自分を開き直れました。

ペス山:描くことで変わることもありますよね。この漫画も読んで、「わかります」って反応と同じように「気持ち悪い」って反応もあります。私はそれでちょっと安心できるんです。「複雑な自分がかわいそう」感を出しすぎると、思っていても気持ち悪いって言いにくいじゃないですか。

こだま:あんまり「かわいそう」感は出ていないですよ。理屈で書いてあるから、立場を超えて、あらゆる「自分は人と生き方が違うと思っている」人への励ましになっていますよね。この作品を読むといろんな生き方があるんだ、あっていいんだとが思える。

ペス山:嬉しいです。いろんな人にそのままでいいんだって思ってほしくて描いた漫画でもあります。特に一人あげるとしたら小さい時の自分に読んでほしい、と思って描いています。子供の時は視野も狭いから、無理もして自分を追い詰めるんですよ。本当は無理しないでいいって誰かに言ってほしかったんですよね。

こだま:「実は声に出せない気持ち」がでている作品になってますよ。私も『ここは~』では、例えば就きたい仕事に就けずに落ち込んでいた当時の自分に向けて書いています。自分の思い通りにならなくても、だから別の可能性が広がって今がある。失敗や辛いことがあっても作品にできる。そんなに落ち込むことがないってことが今はわかるんです。前作を出した時に「世の中のまだ誰も知らないことを明らかにすることが文学だ」ということを書いてくれた方がいました。ペス山さんの漫画も同じです。内に込めている秘密をさらけ出す。それで、みんながこんな生き方をしていいんだって思える。だから2巻が気になります。

ペス山:1巻は今まで脳内で抱いていたファンタジーを現実化したことで終わりました。2巻以降は自分の理屈が通用しない世界に踏み込んでいくというイメージです。私もこだまさんの次回作が読みたい。

こだま:次は創作に挑戦します。構想はもう決まっていて、実際に私が出会った障害を持った男の子を主人公にした小説です。あと『夫のちんぽ~』が今年は漫画化、実写化と続くのでそちらも楽しみにしています。

ペス山:楽しみですね。きょうはありがとうございました。聞きたかったことが沢山聞けました。