発生当日の夕方。与野党国対委員長による会談、いわゆる「与野国(よやこく)」がセットされた。

 ついさっきまで対決姿勢を続けてきた野党が、今後提出される復旧・復興関連の法案にどう対応するか。それが焦点だった。

 長く政権を担った政党だ。「ねじれ国会」に乗じて審議を政争に利用することはあるまい、と考えた。ただ、「危機だからこそ現政権には対応を任せられない」との理屈もありうる。

 さあ、野党はどう出るかと、ふだんなら考える。だが、この時は「それだけでいいのか」との思いがわいてきた。

 いまは「ふだん」ではないのだ。どう「出る」かと待ち構えるのではなく、どう「出させる」か。そのために何ができるか。そこを考えるべきではないか、と。

 もともと私は政治記者が「プレーヤー」になることには批判的だ。

 親しい政治家のスピーチ原稿を代筆する。選挙に出た知人の応援演説をする。政治家を引き合わせる。報道内容を「調整」する。そうした姿を見たり、うわさ話を聞いたりしては、いかがなものかと感じてきた。

 政治報道には、結果からみれば特定の政治家、政党のプラスになってしまう面がつきまとう。だからといって、初めからそのつもりで報じたり、「その相手にプラスをもたらさない」と決め打ちしたりすれば、政治目的を持った「プレーヤー」に陥る。その競合相手に対してならば結果的にプラスをもたらしても構わないのか。考え始めるときりがない。

――少々脱線した。要するに、それだけ「プレーヤー」になることを警戒する私が、この時ばかりは一線を越えると腹をくくった、ということだ。

 自分なりのやり方で与野党の政治休戦をだめ押しする。

 政治にかけてみよう、と思った。

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野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

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