そして、実際に大谷獲得に成功すると、エンゼルスはかつてドラフト1巡で指名し、2015年から正一塁手として3年連続で16本塁打を放っていた28歳のC.J.クロンをレイズへトレードした。玉突きで出場機会が制限されることが確実だったとはいえ、大谷が1年目から活躍する保証もない状況でのクロン放出もまた、エンゼルスの本気度をうかがわせる動きだった。

「二刀流」実現のための条件その二、中6日でのローテーションに関しては、皮肉にもエンゼルスがここ数年低迷していたことが幸いした。つまり不動のエース不在というチーム事情だ。

 中6日でのローテーション=先発6人でのローテーションを組むということは、必然的に先発投手の年間登板数が通常の中4日=5人ローテに比べて少なくなるということ。これは勝利投手となるチャンス、三振を奪う機会、メジャーの先発投手では特に重要視される投球回数を稼ぐ機会が減ることも意味する。要するに個人成績は伸びないということで、これは意外と深刻な問題なのだ。

 メジャーリーグでは、契約にタイトル獲得によるインセンティブを設定することが一般的。また先発回数、投球回数に応じて出来高ボーナスが付くことも珍しくない。ドジャース入りした前田健太も基本給こそ低めだが、先発回数、投球回数を一定数クリアすれば多額のインセンティブを手にすることができる契約になっている。前田の同僚でメジャー屈指の先発左腕であるクレイトン・カーショーら各球団のエース級は、たいていそうしたボーナス込みでの契約だ。

 となれば、彼らにとって先発6人ローテーションで自らの先発回数が減るのはおもしろくないだろう。それがたとえチーム方針の変更の結果であってもだ。実際、契約社会の米国らしく、カーショー級のエース投手の場合は、可能な限り中4日の先発ペースを保つようにチームも配慮するのが普通。そのしわ寄せとして、先発5番手が登板機会を飛ばされるケースは珍しくない。

 このように、エースひとりが中4日の先発機会をキープするためだけでも、誰かが割を食うのは不可避。もし仮に、中4日を事実上保証されたエースがいるチームに中6日が前提の大谷が入団したとなれば、残りの先発投手の登板ペースは乱れに乱れることは想像に難くない。これではチームとしてのリスクが高すぎるだろう。とはいえ、インセンティブ契約を抱えたエースに後出しで中6日のローテーションを押し付けるのもまた筋が通らない。つまり、大谷は「二刀流」のためにエース不在のチームを選ぶ必要があったのだ。

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エンゼルス入団は当然の帰結