「まだ、野球を辞めてはいけないんです。彼には責任があります。無理強いして悪いけど、責任があるんです。彼で、人生を左右された人間、僕らの世代にはいっぱいいます。彼からしたら『そんなん、知らんわ』でしょうけど、だからあいつには、最後まで野球をやってほしいんです。きっとその自覚もあるでしょう。だから、僕も言うんです」

 2018年4月7日。大西の経営する焼肉店「笑ぎゅう」に、PL学園時代の同級生が来店していた。

 そのチームメートが、その場で松坂に電話を入れた。

 「大西もおるぞ」
 電話を代わった。
 「久しぶりやな」
 「今度、店行くわ」

 その日、松坂はチームの大阪遠征に帯同していた。次なる遠征時での来訪を、大西に告げた。

 中日は、GW中の5月4~6日に、甲子園での阪神戦が組まれている。2度目の先発となる19日の阪神戦(ナゴヤドーム)で、きっちりと試合を作ることができれば、さらに勝つことができれば、その「甲子園凱旋」の可能性も出てくるかもしれない。

「無理は分かっているんですけど、あの“えげつないストレート”で抑えるのを、もう一度見たいんですけね。無理なんですけどね。でも、松坂大輔なら、何かをやりそうな期待感があるんです」

 勝てよ、松坂。ええ肉、用意して、待ってるからな。

 あの夏から、20年。

 大阪で『復活』を祝う日を、大西は待ち望んでいる。(文・喜瀬雅則)
     
(敬称略)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス、中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。