「石井貴に代わりまして、ピッチャー・デストラーデ」の場内アナウンスが流れた直後、スタンドのファンはもとより、ネット裏の記者席からも思わず「ウソッ!」と驚きの声が上がった。

 95年5月9日のオリックスvs西武(富山)での出来事だ。

 0対9と一方的にリードされた西武・東尾修監督は、8回2死からこの日5番DHで出場していたデストラーデを3人目の投手としてマウンドに送った。

「ファンサービスで投げさせた。2死無走者で1人だったら大丈夫」というのが理由。ワンサイドゲームに退屈し、試合途中で帰宅しようとするファンの足止め作戦である。

 これに加えて、「ワンサイドの負け試合で投手を無駄に起用したくない」(森繁和投手コーチ)という台所事情もあった。

 かくして、「ハイスクール時代(15歳)以来の登板」となったデストラーデは、「メジャーで投げるのがマイドリームだった」とあって、捕手・植田幸弘のサインに首を振って、ロージンを手にするなど、なかなかの役者ぶり。このパフォーマンスにはスタンドのファンも大喜びだったが、良かったのはここまで。

 先頭の高田誠にカウント2-2から右中間三塁打を浴びると、ニール、藤井康雄に連続四球で、たちまち2死満塁のピンチに。

「ピシャリと抑えて、マウンドでお得意のガッツポーズをする予定だったんだがな」というデストラーデだが、結局、1死も取れないまま投球数14、被安打1、与四球2で4番手・竹下潤に交代させられる羽目になった。この回は本職の竹下が踏ん張り、何とか無失点で切り抜けたとはいえ、投手の無駄遣いを避けようとしたベンチの思惑も裏目に出て、監督、コーチもガックリ。

 しかも、西武はこの試合の直前までオリックスに2勝1敗と勝ち越していたのに、0対9の大敗を境に勝てなくなり、終わってみれば5勝21敗。これが大きく祟り、リーグ5連覇を逃す羽目に。ファンサービスで野手を登板させたツケは、結果的に高くついてしまった。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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