「いろいろな考え方があるかもしれんが、格式の高いイベントを冒とくしたと解釈した。松井君はセントラルを代表する打者。打てばご愛嬌だが、打ち取られたとき、彼のプライドは傷つく」(野村監督)

 松井との対決を楽しみにしていたイチローは困惑の表情を浮かべたが、高津を遊ゴロに打ち取り、ゲームセット。「高津さんと聞いて、全力では投げられないと思った。代打を出されるのは予想していましたが、僕も本職じゃないですから。気持ちのいいのと悪いのといろいろです」と複雑な胸中をのぞかせた。

 一方、松井は「昨日、今日入ってきた若造がとやかく言えません。でも、(対決は)楽しみではなかったです」と遠慮がちに本音を漏らした。

 また、思いがけず松井の代役を務めた高津は「オールスター前から(投手・イチロー)そういう話で盛り上がっていましたけど、まさか僕が打席に立つとは思ってもみませんでした」と当惑気味にコメントした。

 ファンの間でも「せっかくの対決に水を差した」「野村監督の主張は当然」などと賛否両論に分かれ、侃々諤々の大論争となった。

 それから19年後の2015年10月4日、マーリンズに在籍していたイチローは自ら志願してフィリーズ戦の8回からリリーフに立ち、メジャー初マウンドを実現。打者5人に対し、最速89マイル(約143キロ)、18球2安打1失点無四球を記録している。

●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

著者プロフィールを見る
久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

久保田龍雄の記事一覧はこちら