安倍政権の悪政と闘おうとする官僚から見れば、もはやマスコミは頼りになる協力者ではない。それどころか、下手をすると、牙をむいて襲い掛かる敵方の番犬に豹変する危険な存在だということになってしまった。

 近畿財務局で決裁文書の改ざんを強要され、最後は自殺に追い込まれた男性職員のことを考えていただきたい。この方は、元々、森友への土地の不当安売り当時からこの件に関与していたとされる。おそらく、その時から、問題の存在に気づいていたはずだ。しかし、地方の出先機関である近畿財務局の現場では、本省の指示は絶対だ。大きな疑問を抱きながらも、やむなく上司の命令に忠実に従っていたのであろう。

 決裁文書の改ざん命令を受けた時、この職員はかなり抵抗したと報じられている。その時、マスコミが正常に機能し、官僚から見て、信頼に足る存在だったらどうなっていただろうかと思う。この職員本人だけでなく、これに関わる複数の職員、あるいは、近畿財務局の幹部の中にも、さすがに決裁文書改ざんはしたくないと考えた人は多かったはずだ。そのうちの一人でも、マスコミにこの話を持ち出して、本省からの改ざん指示や昭恵夫人の関与などを報道してもらえたら、改ざんはしなくて済んだに違いない。あるいは、佐川氏のように、2016年夏以降の人事異動で理財局の担当部局に異動してきた、いわば、手の汚れていない部下たちの一人でも、改ざんの動きについてマスコミにリークしていたら……。 尊い命は犠牲にならずに済んだのではないか。

 しかし、当時の状況を考えると、仮にマスコミに話をした場合、それが、世の中に出る前に官邸に伝わるリスクが非常に大きいと考えるのが普通だ。官僚は、社会部の記者とは普段あまり付き合いがない。優秀な社会部の記者は、情報源を守ることに異常なまでの注意を払うが、官僚が付き合っているのは経済部や政治部の記者がほとんどだ。彼らの情報源秘匿の意識は平均的に言うと非常に低いというのが私の官僚時代に得た経験だ。私は、記者と会うときに、取材を受けているというよりも、自分が取材しているというつもりで会っていた。それほど、こちらの情報をとるために、記者は容易に敵方の情報を漏らしてくれるのだ。もちろん、敵もそれを知っていてわざとガセネタを記者を通じて流すこともあるが。

 いずれにしても、経済部や政治部は、完全に安倍政権の軍門に下っているか、そうでなくても、部内に必ず安倍政権から情報をとるために、ご機嫌伺いで、安倍政権批判をする人間の情報を差し出したりする連中がたくさんいることを官僚たちはよく理解している。特に、各社の社長クラスがほぼ安倍政権の軍門に下っているという現状は、これまでとは全く状況が異なる。仮に信頼できる記者がいても、その上司を含め、上層部の人間が信頼できるかと言うとかなり疑わしいと言わざるを得ないのである。

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マスコミは本来の機能を取り戻すことができるか…?