5年前の日本なら、多くのマスコミが私の言葉を支持しただろう。しかし、番組中に菅義偉官房長官の二人の秘書官から、テレ朝幹部二人に別々に抗議のショートメールが届くと、テレ朝報道局長は報道ステーションに圧力をかけた。2月には私の4月以降の番組出演がなくなることが決まった。もちろん、陰で官邸からの嫌がらせもあった。そこで、私は、3月27日の最後の報道ステーション出演で、「I am not ABE」というフレーズを印刷したA3の紙を掲げ、安倍政権の報道弾圧の事実を告発するとともに、世界に向かって我々日本人は安倍総理とは違うというアピールをしようとテレビを通じて呼びかけた。

 普通であれば、全てのテレビ局が私に取材し、その背景を含めた報道をして、安倍政権を批判したであろう。現に欧米のマスコミは私に取材し、安倍政権の報道弾圧について批判的な記事や風刺画を掲載した。日本外国特派員協会は私を招いて、真相について話を聞いたり、報道の自由推進賞という賞をわざわざ新設して、私に「報道の自由の友賞」を授与し、私を支持する姿勢を鮮明にした。

 一方、日本のテレビ局は、安倍政権ににらまれることを怖れて沈黙するか、逆に私を批判する映像を流した。その日を最後に、報道ステーションのプロデューサーも異動となり、レギュラーコメンテーターの恵村順一郎氏(朝日新聞論説委員)も降板。報道ステーションが終わった日である。

 この時、私は、安倍政権のマスコミ支配が完成したということをあらためて確認した。それは、安倍政権批判をするときにマスコミの支持を期待することはできないということを意味する。

  もちろん官僚たちは、こうした事態を敏感に感じ取っている。マスコミとタイアップして、政府の悪政を告発するという手段はほぼ封印された。

 その後、安倍政権のマスコミ支配とその悪用は、さらにエスカレートし、批判を封印するだけではなく、安倍批判を展開する個人を潰すという驚くべき手段を使うまでになった。文部科学省の前次官の前川喜平氏が、退官後、加計学園問題で安倍政権批判を展開すると、読売新聞が個人攻撃と思える記事を報道した。一民間人について、前次官とはいえ、職務と関係のない私生活を暴露し、その個人の信用を失墜させるということが起きたのだ。これを見た官僚たちは驚いた。安倍総理の異常性は霞が関中に知れ渡ってはいたが、「御用新聞」とはいえ、日本最大の販売部数を誇る天下の読売新聞が、政権のために”人権侵害”の恐れがある記事で安倍批判をする個人を潰すような報道をする。それほど、日本のマスコミが安倍総理にひれ伏し媚を売っているのだと。

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もし、決裁文書の改ざん問題でマスコミが正常に機能していれば…