たどり着いた名古屋の地では、本拠地開幕のカード3戦目で先発のマウンドに立った。それは球団から「戦力」として認められている、いわば信頼の証しでもある。

 その期待に、何としても応えたかったのだ。

「今は、勝ちにつなげられなかったことの悔しさしかないです。感慨はないですね。過ぎたことなんで」

 5回3失点。その数字だけを見れば、可もなく不可もなく、先発投手としては“そこそこ”の結果とも言える。しかし、要所では巨人打線をきっちりと抑えていた。

 一回、先頭の立岡宗一郎に二塁内野安打を許すと、続く吉川尚輝への初球で二盗を決められてしまった。松坂がモーションを起こしてから、二塁のベースカバーに入った京田陽太のグラブに捕手・大野奨太の送球が収まるまで「3秒43」を要していた。立岡のような俊足相手なら、一連のプレーを「3秒2」前後に抑えなければ、アウトにするのは難しい。3月25日のロッテ戦で、5イニングで3盗塁を許すなどクイックモーションに“スキ”がある松坂に対し、巨人も容赦なく機動力で攻め立ててきた。

 1死三塁とされ、4番のゲレーロに135キロのカットボールをレフト前へ運ばれての1失点。しかし、ここで簡単に崩れなかった。マギーと岡本和真を連続の空振り三振に仕留め「二人を三振に取れてよかったです」と最少失点で切り抜けた。

 ただ、投げた5イニングは、いずれも得点圏に走者を背負っての投球だった。二回2死一塁からは、捕手の大野がパスボール。三回には、先頭の吉川尚の小飛球をショートの京田が深追いしてしまい、処理のまずさから二塁打にされたのをきっかけに、無死満塁のピンチ。ここでマギーを初球の138キロのカットボールで遊ゴロ併殺に打ち取り、勝ち越しの2点目は許したものの、続く岡本も遊ゴロ。事なきを得たかと思った瞬間、京田が一塁へまさかの悪送球で手痛い3点目を許してしまった。

「味方が足を引っ張ったら、こういうゲームになるよ。大輔が投げる。野手の方が硬くなってしまったんじゃないか? 不運? それは、皆さんが思うところだろ。野球にはつきもの。出たとして、次のことを考えないとね」

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松坂が生み出した独特の雰囲気