もし、準備した商品を売り切ってしまうと、次の入荷がいつになるか分からない。そうすると、「松坂のグッズを楽しみにしてキャンプ地に来たお客さんの期待を裏切ってしまうことになる」と北野は言う。それならば、品数や種類をある程度そろえた上で、販売を開始した方がいいのではないか。松坂グッズのキャンプ初日発売を北野が見送ろうとした最大の理由は、そこにあったという。

 それでも、周囲の関心の高まりや、松坂に関する報道の過熱ぶりは無視できなかった。プロスポーツはそうした盛り上がりを生み、話題を作ってナンボの世界でもある。北野は松坂の名前入りタオル(税込み2000円)を100枚、「MATSUZAKA」のネームと背番号の「99」、その右隅にハイビスカスのイラストが添えられたキャンプ地限定の「サポーターズユニホーム」(同6000円)100着を、2月1日のキャンプインに間に合わせ、北谷公園野球場前のグッズ売店で売り出した。

 すると、タオルは初日で、ユニホームも2日目で完売してしまったのだ。

 人気選手でも、キャンプ中の1カ月間で名前入りのタオル100枚を売り切るのは限られた数人に過ぎない。

 熱烈な中日ファンの中には、北野の顔も、仕事の内容も知っている人たちがいる。松坂グッズが早々に完売したと聞いたファンの間から「松坂のグッズ、いくつ作っていたんですか?」と北野は幾度となく直接確かめられたのだという。

 そのたびに北野は「できる限りの数は用意していたんですけど」と、ひたすら謝り続けた。何度も追加発注をかけ、沖縄に送られてきたらすぐに売店へ置いた。

 それでも、瞬く間に売れていく。松坂グッズにつられるかのように、他の選手のグッズの売り上げも伸びた。第1クールのわずか5日間で、昨季の北谷キャンプ1カ月間での売上高に並んでしまい、最終的には昨年の2.5倍近い売り上げがあった。

 北野は松坂の加入によって「客層も変わった感じがしますね」と分析する。中日キャンプに来るファンは、名古屋や東京からツアーを組んで沖縄へやって来て、練習を熱心に見つめるコア層が中心だったという。ところが、松坂の加入で「地元の人の来場が増えましたね」と北野。これは、松坂がかつて所属していた西武ソフトバンクの両球団がいずれも沖縄でキャンプを張っていないことが大きな要因だったと見られる。つまり、松坂にとっては“初の沖縄キャンプ”。そうしたマニアックな情報が野球ファンのみならず、キャンプ地の沖縄の人々の心もくすぐったようなのだ。

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最悪のシナリオも想定…