こうした惨敗を受け、サウスゲート監督はイングランドに「慎重さ」と「守備重視」のエッセンスを加えた。陣形の重心を後方に落とし、勢い任せのサッカーにブレーキをかけることが指揮官の狙いなのだろう。

「堅守速攻──」。ロシアW杯におけるイングランド代表のポイントはここになりそうだ。

 しかし、約1年の歳月をかけて強化してきたこの3バックも課題が少なくない。最大の弱点は中盤の構成力である。

 3-5-2で挑んだオランダ戦では、中盤センターにジョーダン・ヘンダーソン(リバプール)とアレックス・オクスレード・チェンバレン(リバプール)、ジェシー・リンガード(マンチェスター・ユナイテッド)の3選手を起用。イタリア戦では、エリック・ダイアー(トットナム)とチェンバレン、リンガードを起用したが、いずれも展開力に乏しく、パスワークに変化をつけられなかった。選手の足元へのパスばかりで、3、4選手が連動したスムーズな崩しは皆無に等しかった。

 唯一、攻撃のスピードギアが上がるのは、サイドのオープンスペースにウイングバックが走り込んだとき。フリーになりやすいウイングバックがサイドアタックに繋げればチャンスになったが、それでも攻撃幅は狭く、イタリア戦でテレビ解説を務めた元クロアチア代表監督のスラベン・ビリッチ氏も「(ジェイミー・バーディーとラヒーム・スターリングで編成した)最前線に優れた選手がいるのに、彼らにラストパスを送るパサーがいない。『W杯で勝ち抜けるか?』との問いには疑問符がつく」と手厳しかった。

 その点で言えば、復活の兆しを見せているジャック・ウィルシャー(アーセナル)が、ケガで代表を離脱したのは痛かった。ウィルシャー同様、パスで変化をつけられるアダム・ララナ(リバプール)もケガによる長期離脱の影響で本調子には遠く、昨季に比べると今季は精彩を欠いているデル・アリ(トットナム)も、今回の代表戦では先発の機会を与えられなかった。特に、次世代のエースとして期待されながら、精神面でのムラが指摘されるアリについては、代表合宿中にサウスゲート監督が「先発の座が保証されているわけではない」と本人に叱責したという。

 無論、今回の強化試合にはプレミアでゴールを量産中のFWハリー・ケイン(トットナム)がケガで招集されなかったという事情はある。しかしケインの有無にかかわらず、中盤の構成力不足はサウスゲート政権の継続課題だ。加えて、肝になるディフェンスも人数をかけるため失点は減ってはいるが、1対1の局面で守備対応に甘さがあり、とても盤石とはいえない。

 そのため、アリ、ララナ、ウィルシャーのうち、少なくとも2選手の身体がフィットし、好調を維持した状態で先発に名を連ねるようにならなければ、ロシアでの上位進出は難しいのではないだろうか。(文・田嶋コウスケ)