日本では、村社会のなごりで「みんなと同じ」、つまり「常識」や「普通」を守ることは素晴らしいようにみえますが、実はそこから少し外れた方が、成功のための「ひらめき」が出てきやすいと感じます。当然ですが、普通の子は普通のことしかしないし、思いつきません。ポルノグラフィティの歌にもありますが、宇宙船のない時代に、月に行こうという発想ができるのはものすごいことで、さらに言えば、本気でその発想を信じていなければ月面着陸を成功させること自体、不可能です。「常識」なんて、少し時間がたてば変わってしまうあいまいなものです。はやりの若者言葉が正式な使い方になることもあるし、昔は地球は平たいなんて認識が常識でした。特に歴史や科学の分野では年ごとに発見があり、教科書の内容が前年とちゃっかり変わっていることが多々あります。そんな流動的なものに子どもをギッチリ縛り付ける必要はありません。

 学校でも家庭でも「ちゃんとしなさい」という教育は、「みんなと同じようにしなさい」と同義語で、それだと枠内から外れた行為や発想はしにくくなります。どこかズレていても、個性として伸ばしていく方が、自由な発想で大きな成功をつかみやすいと思います。

 それに、人に迷惑をかけない範囲なら「ちゃんとしなくていい」教育の方が、親も子も心にゆとりをもって、のびのび過ごせる気がします。

 製薬の世界で大発見をした研究者の友人がいるのですが、彼は大学の卒業式の日に便所スリッパを履いてきました。そして卒業証書を受け取るときだけ友人に革靴とかえてもらい、受け取ったらさっさと研究室に帰っていきました。みんなと同様にビシッと袴を着てきた私は、それを見て「常識にとらわれずに自由だなぁ」と感じたのを覚えています。研究職では他にも、大学院生にもなって学校の池でザリガニをとり、料理して食べていた子もいて、無理に周囲に合わせない、いい意味で変な人が多かった気がします。

 よく少年漫画の作者が「少年の心を忘れず」という発言をしますが、子どものような遊び心がなければ、みんながワクワクするようなストーリーは描けないでしょう。以前、なにかで漫画「ワンピース」の作者・尾田栄一郎先生のご自宅を見たのですが、家の中を小さな電車(乗車可能)が走っていたり、トイレに大きなサメがいたり、遊園地のようでした。

  ただ、楳図かずおさんのまことちゃんハウスは「景観をそこなう」と裁判を起こされてしまいました……一風変わった面白い発想が浮かんでも、周囲を不快にするならば控えるべきでしょう。ただ、私はああいう家に住めたら、楽しそうと思いましたけどね。

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杉山奈津子

杉山奈津子

杉山奈津子(すぎやま・なつこ) 1982年、静岡県生まれ。東京大学薬学部卒業後、うつによりしばらく実家で休養。厚生労働省管轄医療財団勤務を経て、現在、講演・執筆など医療の啓発活動に努める。1児の母。著書に『偏差値29から東大に合格した私の超独学勉強法』『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』『「うつ」と上手につきあう本 少しずつ、ゆっくりと元気になるヒント』など。ツイッターのアカウントは@suginat

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