ウクライナの組織的な仕掛けに苦戦した山口蛍(写真・Getty images)
ウクライナの組織的な仕掛けに苦戦した山口蛍(写真・Getty images)

 “力負け”という表現が当てはまるウクライナ戦だが、その意味合いはいくつかある。10番のイェブヘン・コノプリャンカを中心に“個の力”で上回られたこと、ミスの数が圧倒的だったこと、そして戦術的な差などだ。

 試合展開によってはさらに差が付いていた可能性もある内容だが、1つはっきりしているのは可変性の高いチームに現在のハリルジャパンのディフェンスはあまり強くないということだ。“仮想ポーランド”とも見られたウクライナだが、欧州ベースの組織的なオーガナイズやフィジカル的な特徴に共通点はあるものの、志向するスタイルはかなり相違点がある。

 母国の英雄であるアンドリー・シェフチェンコ監督が率い、元イタリア代表の名DFマウロ・タソッティ氏が参謀役として戦術面を支えるウクライナは欧州で流行するポジショナルプレーのコンセプトをベースに、守備はイタリア仕込みのゾーンディフェンスを用いる。今回のウクライナはタラス・ステパネンコ、オレクサンドル・ジンチェンコ、ルスラン・マリノフスキーが中盤でトライアングルを形成し、基本的に日本は長谷部誠と山口蛍の2ボランチ、トップ下の柴崎岳がマンツー気味にプレッシャーをかける形を取った。

 もっとも、相手のビルドアップの初期段階では、柴崎は杉本健勇と2枚で並ぶ形でアンカーのステパネンコを挟み込み、センターバックが持ったところで杉本が前に出てチェイシングをかけ、柴崎がステパネンコに付く。山口と長谷部はジンチェンコとマリノフスキーを牽制するというオーガナイズを取っていた。これは序盤ではかなり機能し、ボールも高い位置で奪えた。

 序盤に何度かピンチがあったのは、コノプリャンカの仕掛けに右サイドバックの酒井高徳が後手を踏んだシーンと、植田直通と長谷部が何度かリスキーなミスパスをしてしまったからに過ぎない。しかし、時間が経過するにつれ、ウクライナの中盤がポジショニングを変化させてきたことで、日本の中盤は混乱を起こしたまま、しばらく行き当たりばったりの対応を強いられることになった。

 この可変の動きはいくつかあったが、象徴的なのはジンチェンコがステパネンコのやや後方ぐらいまで引いてボールを持つ動きだ。これで山口のプレスを引き出しておいて、その背後に生じるスペースにマリノフスキーが入り込む。いわゆる“V字型“から“雁行型“にすることで、日本のマンツーマン気味の中盤にギャップを生み出したわけだ。

 興味深いのはフォーメーションそのものを変更したわけではないこと。守備では奇麗な4-1-4-1を組織的にスライドさせていたし、攻撃もスタートは“V字型“であることが多かった。違ったのは流れの中でのポジショニングであり、だからこそ山口が深いところまでプレスに行っては裏にスペースが生じる悪循環に陥ったのだ。そこに、長友佑都とのサイドラインでの攻防には苦戦していた右サイドハーフのマルロス・ロメロ・ボンフィムが流れてきて、インサイドで仕掛けたところからも危ないシーンを作られた。

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