かつてはメールでややこしい頼み事をしたら「いまメールを送りましたが」と電話するのが常だった。病気になってからは「お体はいかがですか」と相手に気をつかわせるのが嫌で、かけなくなった。

 向こうも電話を遠慮したせいか、仕事絡みでもらうメールにとげとげしさを感じることが出てきていた。

 朝日新聞の記事で使用例を調べると、それまでの1年間で300本超がヒットした。政界きってのインテリとされた宮沢喜一元首相と高坂正堯・京大教授の対談本「美しい日本への挑戦」にも2人の「(笑)」が出てくる。思った以上に世間は笑いまくっていた。

 ただ、その後はメールのやりとり自体が減ったこともあり、うやむやになった。

 例の夢から数日後。そこに登場した先輩記者がSNSで彼の記事を紹介しているのに気がついた。一読して、もうちょっと書きようがあるだろうと思い、コメント欄で注文をつけた。

 一緒に働いていたときに、ご自宅をうかがったこともある仲だ。多少、辛辣(しんらつ)なことを書いても許されると思ったが、今のところ注文への答えはない。

 抗がん剤がそうであるように、強いものがいつでも、誰にでも効くとは限らない。

 切迫感や使命感は、それに触れる人をしかめっ面にしがちだ。

 それこそ「(笑)」でもおしりにくっつけておけばよかったのかもしれない。

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野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

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