「小学生、中学生のうちはまずとにかく楽しく野球をやらせてもらいたいです。もちろん、真剣にやりながらですよ。それで、特に小学校の指導者には選手に対して怒らないでもらいたい。自分の娘も少年野球のチームに入っていたことがあり、頼まれて見に行ったことがありました。その時に監督に『絶対に怒らないでくれ』と言ったんですが、それでも怒鳴ったりするんですね。子どものうちはできなくて当たり前。それで怒られていては、子どもは野球が嫌になりますよ。それと、保護者も熱心なことは結構なんですが、プレーするのは子どもたちです。親が目の色を変えてやっているのは、子どもにとっても良くないと思いますね」

 八重樫氏が気になっているのはアマチュア野球、育成年代だけではない。現在のプロのトッププレイヤーに対しても求めたいことがあるそうだ。

「一部には、一生懸命走らない選手がいますよね。それでちょっと真剣に走ると肉離れとか起こすじゃないですか。昔は脚の肉離れなんていうのは練習が足りなくて恥ずかしいことだったんですよ。稲葉(篤紀)は全力疾走していたから、あれだけの選手になって、ファンの人気も高かったと思うんですよね。今せっかく侍ジャパンの監督なんだから、解説の時にも全力で走ることが大事だと言ってもらいたいですね。マスコミも稲葉に対してそういう質問をどんどんぶつけてほしい。プロが一生懸命プレーしている姿を見せることが、高校生や子どもたちにいい影響を与え、結果として野球界全体が良くなっていくと思います」

 長年プロ野球の世界に身を置き、またアマチュア球界の現場も知っている八重樫氏の言葉だけにどれも説得力がある。夏の高校野球が100回の記念大会を迎え、東京五輪では野球が復活するなどあらゆる意味で野球界が転換期であることは間違いない。そんな時期だからこそ、プロアマ一体となって底辺拡大に取り組む重要性を改めて感じた。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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