八重樫幸雄氏 
八重樫幸雄氏 
現役時代の八重樫幸雄氏 (c)朝日新聞社
現役時代の八重樫幸雄氏 (c)朝日新聞社

 オープンスタンスの打者と言われて、あなたは誰を思い浮かべるだろうか--30代半ばを過ぎたプロ野球ファンであれば、多くの人が「ヤクルトの八重樫幸雄」と答えるのではないだろうか。野球選手としては珍しい眼鏡をかけた風貌と、その独特なバッティングフォームで親しまれた強打の捕手である。

【写真】現役時代の八重樫さんの勇姿

 選手として24年(最後の3年間はバッテリーコーチ兼任)、コーチおよび二軍監督として15年、スカウトとして8年、合計47年をヤクルトスワローズ一筋で過ごした、まさに叩き上げの野球人だ。現在、甲子園では選抜高校野球大会が行われているが、そんな野球界の表も裏も知り尽くした八重樫氏に近年の野球界を見て感じること、野球界の将来のために取り組むべきことを聞いた。

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 八重樫氏は1969年のドラフトで1位指名を受け、仙台商(宮城)からヤクルトに入団した。その後は選手、首脳陣として39年間ユニフォームを着続けた後にスカウトとなったが、久しぶりに見たアマチュア野球の現場で感じたことがあったという。それは選手のスケールよりも勝敗を求めすぎる現場の体質だった。

「高校野球でもチームによって、ギャップが大きいんですよね。厳しいチームは厳しいし、一方で自由にやってるチームもある。勝負になると厳しいチームが勝つことが多いんですけど、そんなチームでも『ゲームに勝つこと』は教えられているが、『野球の技術』は教えられていないように見えました。伝統校や強豪校と言われるチームでも、体の芯の部分がひ弱な選手が多い。ピッチャーの場合は、少年野球の頃から投げすぎてヒジや肩を痛めていることもよくありますよね」

 中学の硬式野球では投手のイニング制限が設けられており、高校野球でも今年の選抜大会からタイブレークが導入された。アマチュア球界もようやく選手を守るためのルールが設けられてきているが、それだけでは不足している部分も多いのではないだろうか。

「まずは、やっぱり球界の底辺拡大を何とかしないといけないと思います。シニアリーグや中学生の硬式チームはいっぱいありますが、それより下の少年野球や中学の軟式野球部のチームは減っています。昨年、アマチュア野球の指導資格を取得して少年野球も見ていますが、そんな年代から勝つことを求めすぎているんですよね。こうした指導をしている人は、大体が精神論しか言っていないことが多い。個人練習はそれぞれ個別にやっているみたいですが、チームになると、作戦が先に来て、技術の話にならない。あとは野球を思い切りできる環境が少ないことも問題ですね。公園でも思い切りバットを振れるところはなかなかありません。だからどうしても野球(のスケール)が小さくなりますよね」

 自身も捕手ながら通算103本塁打を記録しており、岩村明憲、青木宣親など多くの好打者を指導してきた八重樫氏から見ると、やはりバッティングについて気になるところが多いという。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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