誰もが認めるエース級として活躍を見せているのは松坂、田中将、藤浪の三人であるが、それ以外も戦力になっていない投手はほとんどいない。近藤、大谷、西村、田中健、今村は中継ぎとしてチームを支えており、東浜は昨年最多勝に輝いている。また小笠原も成長著しく、今シーズンは開幕投手候補にも挙げられているほどだ。この結果を見ると「甲子園優勝投手は大成しない」というジンクスは適切ではないと言い切れるのではないだろうか。

 そもそも、このジンクスが言われるようになった背景としては、甲子園で優勝するような投手は高校時代に登板過多で酷使されており、そのことがその後の故障に繋がっているという仮説から言われている部分が大きいように感じる。しかし、トレーニングの進歩などで高校球児の打力が向上した現在では、複数の投手による分業制ではないと、そもそも甲子園で優勝することが難しい時代なのである。

 プロ入りした選手たちを見ても、一度もマウンドを譲らずに全試合を投げ抜いた例は98年春の松坂、02年春の大谷、15年春の平沼だけである。また正田のいた桐生第一には一場靖弘(元楽天など)、藤浪のいた大阪桐蔭には沢田圭佑(オリックス)、平沼のいた敦賀気比には山崎颯一郎(オリックス)、小笠原のいた東海大相模には吉田凌(オリックス)と後にプロ入りする投手を複数抱えていた例も少なくない。昨年夏の花咲徳栄などは全6試合で綱脇慧(東北福祉大)から清水への継投で優勝を勝ち取っている。

 一人の大エースの手によって甲子園優勝を勝ち取るというのは確かにドラマチックなものではあるが、その投手のその後の選手生命を考えると望ましいものではない。そういう意味では近年の高校野球は確実に変化していると言えるだろう。今年開催される90回記念の選抜、そして100回記念の選手権大会でも、将来大成する優勝投手が出現することを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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