よし、俺も負けてられん。続く今江年晶がライト前ヒットで出塁すると、岡島豪郎の3球目に2盗を成功させたのは「大輔は走者が出たら、必ずスキがあるから、逃さず行ってくれ」という試合前の平石からの指示だった。

「僕は僕で、楽天はソツがない。そういうところを見せられたらと思っていたんです。交流戦や、ひょっとしたら日本シリーズで戦うかもしれないじゃないですか。楽天、イヤだなというのを、大輔に見せたかったんです」

 その走者を置いて、ジャフェット・アマダーは2ランを放った。平石が放った“ジャブ”が効いた一発と言える。松坂への対抗心。あいつを倒したい。その気持ちは、あの夏から20年たった今も、全く変わらない。

「あいつの人間性ですよね。『松坂世代』って言われて、僕らの代、誰も嫌がらないでしょ。メジャーに行っても、あいつは何も変わらない。だから、今の大輔で、また輝いてほしいんです。同級生でも、そのことは話しているし、本人にも伝えたんですよ」

 2回2失点。31球、最高速144キロ。

 戻ってきたという、その“証し”以上に、松坂が見せた変わらぬ振る舞いが、平石は嬉しかった。そんな同級生と同様に、松坂との再会を「すごく楽しみにしていました」と待ち望んでいたのが、そこから中9日、3月14日のオープン戦で対戦することになった西武・松井稼頭央だった。(続)(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。