山本浩二 (c)朝日新聞社
山本浩二 (c)朝日新聞社

 各地でオープン戦も真っ盛りだが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「トンデモハプニング編」だ。

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 ヘディング事件というと、中日時代の宇野勝の代名詞になっているが、宇野の前に“元祖ヘディング事件”を起こした選手がいた事実は、半ば忘れ去られた感がある。

 その選手は、“ミスター赤ヘル”として広島カープの黄金期の4番を務めた山本浩二である。

 1981年4月19日の巨人戦(後楽園)、2回にリーグ単独トップの先制5号ソロを放った山本だが、1対4とリードを許した7回に大きな落とし穴が待ち受けていた。2死から巨人の4番・中畑清が大きな中飛を打ち上げた。

 センターを守っていた山本は「任せなさい!」とばかりに捕球態勢に入ったが、あろうことか、目測を誤ってしまい、一度はグラブの先っぽに収めたボールをおでこにゴツーンと当ててしまった。ボールを見失っている間に中畑は一挙三塁へ(記録は三塁打)。このプレーがきっかけでダメ押しとも言うべき2点を失い、1対6で無念の敗戦。

 思わぬチョンボをしでかしてしまった山本は「カッコ悪いプレーをやってしまった。恥ずかしさから、痛みをこらえるのに必死だったよ。当たり過ぎもバットだけにしておきたいものです」と打っても守っても“大当たり”の一日に複雑な表情。

 “ミスター”の称号も形無しになるような珍プレーだったが、それから4カ月後に起こった宇野のヘディング事件のインパクトがあまりにも強烈だったことから、“山本ヘディング事件”はすっかり霞んでしまった。さぞかし本人もホッとしていることだろう。

 グラウンドに落ちたコンタクトレンズの捜索作業で試合が中断する珍事となったのは、90年8月28日の広島vs中日(ナゴヤ)。

 1対1の同点で迎えた7回、中日は無死一塁で郭源治が捕前に送りバントした。打球をすばやく処理した広島の捕手・達川光男は一塁に転送。1死を取った。ここまでは良かった。ところが、送球の際に左目のハードコンタクトレンズ(1枚1万5千円)を本塁付近に落としてしまったから、さあ大変。

 「コンタクトはどこ?」と必死に捜す達川を見るに見かねて、広島ナインや審判まで加勢する大捜索作戦になったが、うっかり踏みつぶしてしまったら、元も子もないとあって、皆、達川の周りに輪を作って心配そうに覗き込むのみ。あまりの珍場面に笑いをかみ殺している選手もおり、もちろん、スタンドのファンも大爆笑だった。結局、レンズは見つからずじまい。達川は仕方なく新品に変えて、ようやくプレー再開となった。

 その後、2対1と勝ち越した9回に自ら3点目となるタイムリーを放ち、見事チームの勝利に貢献。「(レンズを)新品に変えてヒットを打てたから、度が合ってなかったのかなあ」のひょうきんコメントも飛び出し、報道陣を笑わせていた。

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久保田龍雄

久保田龍雄

久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

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