多くの人が、悪い状態であることを口にすると、実際に事態が悪くなる、というファンタジーを持っておられます。だから、悪い状態のことを相手に言わせないように、意識的、無意識的に努力します。だから、こんな発言をさせないように努力してしまうのです。

 しかし、口に出そうが出すまいが、嫌だと感じていることは嫌なので、嫌なことは嫌だと等身大で聞いてもらえた方が、信頼感が増します。それこそが、「いま・ここ」でできることです。

 火中に栗を拾いに行くような危険な感じがしますよね。

 例えば、私がそう書く代わりに、「これを続けて行けば、必ず夫婦関係が改善するでしょう」などと書けば、仮にもっともな話だと思ってもらえても、「なるほどねー」とされてスルーされてしまいうのではないかと思います。それは、将来の話をしているからです。

「この方法で、多くの夫婦が関係を改善してきました」というのも似たり寄ったりです。これは、過去の話をしています。

 火中に栗を拾いに行くような感じがした人こそが、今ここでのコミュニケーションを変えることの本当のきつさを認識した、つまりコミュニケーションを変えることを頭の中でシミュレーションした人なので、いま・ここでできる変化を現実化する一歩を頭の中で踏み出した人なのです。(文/西澤寿樹)

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西澤寿樹

西澤寿樹

西澤寿樹(にしざわ・としき)/1964年、長野県生まれ。臨床心理士、カウンセラー。女性と夫婦のためのカウンセリングルーム「@はあと・くりにっく」(東京・渋谷)で多くのカップルから相談を受ける。経営者、医療関係者、アーティスト等のクライアントを多く抱える。 慶應義塾大学経営管理研究科修士課程修了、青山学院大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程単位取得退学。戦略コンサルティング会社、証券会社勤務を経て現職

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