ましてや、過去の感情や出来事への評価という心の内面のことが、現在の感情に影響を受けるという研究は、以前からずいぶんありました。

 つまり、実際にその時の体験がどうであったかよりも、思い出すときの状況によって、それがどういう体験であったかが決まってしまうということなのです。なので、現在2人の関係がよければ、過去の嫌な体験も、「ああ、そんなこともあったねえ」という、いわば微笑ましい体験として思い出されますし、今の2人の状況が悪ければ、楽しかった体験も、嫌だった体験として思い出されてしまうということなのです。

 桃子さんも、今は別れたいと言いだすほど嫌な状態なので、当然、うまくいっていたときの記憶も、現在の状態に影響を受けて、嫌な体験として思い出されてしまうのです。

 これは人間が持っているメカニズムなので、そんなのおかしいと言っても始まりません。記憶を想起した人は、それが自分にとっての「正しい」記憶なので、それは間違っている、と言われると、自分が正しいと思っていることを否定されたとしか感じません。自分の感覚を否定されると当然嫌な気分になるので、さらに溝が深まってしまいます。

 なので、

「○○の時は、楽しかったじゃないか」

とか

「楽しかった時が一つもなかったというのか?」

などというのは、逆効果以外の何物でもないのです。

 では、こういうとき、どうしたらよいのかです。

 現在の感情が過去の記憶内容に影響を与えてしまうのですから、現在の感情をよくするというのが正解です。

 では、現在の感情をよくするためにどうしたらよいかですが、前述のように「あなたの記憶は間違っている」というのはNGです。だからと言って「あなたの言うとおり、新婚旅行はちっとも楽しくなかった」「詰まらなかった」などというのもNGです。「私と一緒の新婚旅行が楽しくなかったのね!」となってしまいます。つまり、過去の話をするのはNGなのです。

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未来の話をすればいいのか?