新生クレイジー・ホースとの後半は、愛器オールド・ブラック(53年製ギブソン・レスポール・ゴールドトップを黒く塗り替えて、ビグスビーのヴィブラート・テイルピースを装着し、ピックアップなどさまざまなパーツに手を加えたもの)を豪快に響かせながら、「ダウン・バイ・ザ・リヴァー」「シナモン・ガール」「サザン・マン」などに加え、『ZUMA』から「ドント・クライ・ノー・ティアーズ」と「コルテス・ザ・キラー」も聞かせてくれた。クレイジー・ホースの演奏は、たしかに「世界一有名なガレージ・バンド」という印象だったが、ニールは、彼らと合体したときにしか生まれないケミストリーのようなものを、心から楽しんでいるようだった。

 このときニール・ヤングは、まだ作品化されていなかった曲を、しかも8分を超す長い曲を僕たちに聞かせている。その後のコンサートのほとんどで取り上げ、ロック界永遠の名曲の一つとして聴き継がれていくこととなる「ライク・ア・ハリケーン」だ。前年暮れあたりからステージで演奏していたそうだが、情報が寸時に伝わることなどなかったあの時代、それは、まったく未知の曲だったといっていいだろう。ポンチョの弾くストリングスマン・シンセサイザーをバックにした表情豊かなニールのギター・ソロを、僕は、はじめて目にする日本のファンへのニールからの大切な贈り物のようにも感じたものだ。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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