市民センター・福祉センターなどの公共機関、学校、患者会などで、トーク&ライブをする2人。声がかかれば、音楽機材一式を車に積んで、日本全国どこにでも出かける。(写真提供/げんきなこ)
市民センター・福祉センターなどの公共機関、学校、患者会などで、トーク&ライブをする2人。声がかかれば、音楽機材一式を車に積んで、日本全国どこにでも出かける。(写真提供/げんきなこ)

 パーキンソン病をきっかけに「思いもよらぬ人生が始まった」という夫婦がいる。河中郁典さん(58歳)と信子さん(53歳)夫婦だ。彼らは音楽ユニット「げんきなこ」として、今日も歌い、思いを届けている。週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2018」では、夫婦の活動の軌跡を紹介している。

【動画】「パーキンソンブルー」はこちら

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 音楽ユニット「げんきなこ」が歌う『パーキンソンブルー』は、一見せつない恋の歌だ。逢いたい人のもとに行きたいのに、立ちすくんで動けなくなってしまう……でもそれは片思いのせいではない。パーキンソン病のせいだ。薬が切れて唐突に動けなくなった患者の、やるせない思いがリアルに描かれている。

降りやまぬかなしみ
動かないせつなさ 
過ぎて行く人波 立ち尽くす(中略)
あなたに逢いたくて ブルー
だけど逢えなくて ブルー
傘の波 乱して 濡れている
ゼブラゾーンの真ん中で
立ちすくんでいる
シグナル またたく
Ah パーキンソン ブルー

 歌の作者は、河中郁典(いくのり)さんと信子さんの音楽ユニット「げんきなこ」。13年前にパーキンソン病と診断された郁典さんの体験を、信子さんが歌にした。

 パーキンソン病は、ドパミンという脳の神経伝達物質が減少することによって、体の運動機能が障害されていく病気だ。手足の震えや筋肉のこわばり、すくみ足などの症状が出る。患者は約16万3千人(2014年)。高齢者の病気というイメージがあるが、郁典さんのように若くして発症するケースもある。ハリウッドスターのマイケル・J・フォックスさんは、30歳で発症した。

■働き盛りに発症「文字がミミズのよう」

 郁典さんが自分の体の違和感に気づいたのは、30代の終わりだった。文字がミミズのようになり、別れ際に手をふろうとしてもうまくふれない。「おかしいなぁ」と思いつつも、受診を先のばしにしてしまった。

 パーキンソン病という確定診断を得たのは、45歳のときだった。働き盛りの年齢で、子どもはまだ小学生。ドパミンを補充する服薬治療をスタートしたが、運動機能の障害は時間とともに進行する。薬が効く時間はじょじょに短くなり、突然動けなくなることもある。飲みすぎると、体が意思とは無関係にクネクネと動き出す。

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