相撲界が大騒ぎになっている。きっかけは、元横綱日馬富士が同じモンゴル出身の後輩力士・貴ノ岩を殴り、頭に傷を負わせたことだ。後日、貴ノ岩側が警察に被害届を提出して事件が発覚。日馬富士は引退し、傷害罪で略式起訴された。日本相撲協会の対応のまずさが批判され、内部の勢力争いなどもからみ、問題は複雑になっている。しかし、問題の核心は、相撲界に、暴力で指導する風潮が残っていたことだ。毎月話題になったニュースを子ども向けにやさしく解説してくれている、小中学生向けの月刊ニュースマガジン『ジュニアエラ』に掲載された、相撲ライター・十枝慶二さんの解説を紹介しよう。

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 日馬富士は普段から、後輩を熱心に指導することで知られていた。今回も、貴ノ岩が横綱白鵬からの説教中にスマートフォンを触った態度が失礼だと、指導の意味もこめて殴ったという。

 相撲界には、「兄弟子とは無理偏にげんこつと書く」という言葉がある。先輩が後輩を殴るなどの暴力が日常的に行われてきた。11年前の力士暴行死事件を機に再発防止に向けた取り組みが行われ、意識は変わりつつあった。しかし、6年前にも暴力事件が起き、後輩を殴った先輩力士が傷害罪で有罪判決を受けていた。「愛情ある指導のためなら、軽い暴力は構わない」という雰囲気は根強く残っていたように思われる。

 日馬富士も現場にいた関係者も当初、今回のことを暴力事件とは思っていなかった。事件翌日、日馬富士と貴ノ岩が握手をし、問題は解決したと思い込んでいた。しかし、貴ノ岩には不満があった。とはいえ、恩義がある日馬富士にそんな思いはぶつけられない。結果的に、警察への被害届の提出という手段が取られた。

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十枝慶二
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