障害を抱える人が自らの障害をネタにした冗談を言う、というシチュエーションに多くの人は慣れていない。多かれ少なかれ、そういう話題に対して身構えてしまうところはあるのではないか。障害者だからといって、少しでも同情的な目で見られたり、気を使われたりしたら、純粋な気持ちで笑ってもらうのは難しくなってしまう。

 今の世の中で、障害を抱える人に対して露骨な差別心を持っている人はほとんどいないだろう。ただ、身近にそういう人がいないために「どう扱っていいのか分からない」という潜在的な戸惑いや不安を抱えている人は多い。日常的に接する機会がないため、過度に気を使ったり、対応が間違っていないか恐れたりしてしまうところはある。「障害を抱える芸人」が舞台に上がって芸を披露するときにも、それと同じような戸惑いを観客に感じさせてしまうリスクはある。

 ただ、濱田はそのハードルをやすやすと乗り越えるほどの芸を身につけていた。1本目のネタの冒頭で「吉本に入ってから目どころか自分の将来も見えなくなりましてね」と軽い自虐ネタを放った。そして、その直後にこう付け加えたのだ。

「これ、どっちか迷ったら笑っといてくださいよ」

 これを言うことで見る人の緊張が一気にほぐれて、ネタを楽しみやすくなった。そこからは自身の体験をもとにして、視覚障害を持つ人とそうではない人の間にある意識のズレを明るく笑いにしてみせた。

 濱田は2017年に『NHK新人お笑い大賞』でも決勝に上がっているほどの実力者である。障害者であるかどうかに関係なく、そもそも一流の話術を持っていたからこそ、決勝の舞台で堂々と自分の芸をやり抜くことができたのだ。

 優勝直後に出演した『ノンストップ!』でも印象的な場面があった。濱田が女性のことを声の印象で好きになるという話をしていて、北陽の虻川美穂子が「祐太郎、おめでとう」と声をかけると、「……えっと、今のは女性の声?」とすかさずボケてみせたのだ。瞬間的にこの返しができるのはただ者ではない。

 濱田は芸人として的確にその場の空気が読める、すなわち状況が「見えている」タイプの芸人である。これからの活躍も十分に期待できるだろう。(文・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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