ピン芸日本一を決める『R-1ぐらんぷり』は、数あるお笑いコンテストの中でも、最も審査員泣かせの大会ではないかと思う。ピン芸と一口に言ってもさまざまな種類の芸があり、それらを比較して審査をするのは容易なことではない。

 2016年に優勝したのは、黒ブリーフ一枚の半裸姿で「誇張しすぎたものまね」というクレージーなネタを披露したハリウッドザコシショウ。2017年に優勝したのは、全裸姿でお盆で股間を隠す危ない芸を見せたアキラ100%。ハイテンションで場を盛り上げる「ハダカ芸」の勢いに押されて、正統派のネタを演じる芸人はなかなか勝てない時代が続いていた。

 ところが、今年の大会ではその流れを変える異変が起こった。正統派の漫談家が優勝を果たしたのだ。3月6日に行われた『R-1ぐらんぷり2018』で、参加総数3795組の中からチャンピオンとなったのは漫談家の濱田祐太郎。しゃべり一本勝負で堂々と栄冠を勝ち取った。

「漫談はなかなか勝てない」というのが過去の『R-1ぐらんぷり』では定説だった。『R-1』の「R」はもともと「落語」から取られている。2002年に行われた第1回大会は座布団の上で漫談を披露し合う大会だった。

 しかし、第2回以降ではその制限がなくなり、コント、ものまね、フリップ芸、歌ネタなど、幅広いジャンルのピン芸が演じられるようになった。

『R-1』が何でもありの大会になってからは、漫談を演じる芸人は苦戦を強いられた。漫談で決勝に上がったことのある芸人はこれまでにも何人かいる。しかし、彼らの大半は優勝を果たすことができなかった。第2回以降、純粋な漫談ネタで優勝したのは2010年大会のあべこうじのみである。

 小道具や音楽に頼らずしゃべりだけで勝負する漫談は高度な芸である。しかし、1人の人間の話だけでネタが進んでいくため、どうしても地味な印象になりやすい。また、3分や4分という限られたネタ時間の中では、漫談という芸の本当の面白さを伝えきれないところもある。今回、漫談家が優勝したのはあべこうじ以来8年ぶりの快挙である。『R-1ぐらんぷり』も16回目を迎えて、ここで改めて原点に帰ったということなのかもしれない。

 優勝した濱田は、生まれつき全盲に近い弱視という障害を持っていることでも話題になった。彼は自身の障害を軽快な口調でネタにして、大きな笑いを起こしていた。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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