そもそも、動物を警察小説に取り入れる発想は、どこからきたのだろうか?

「私自身、動物が好きというのが一番大きい。数年前になりますが、保護した犬を飼っていたことがあります。でも、いつの間にか逃げられてしまい、行方を追うために、動物保護センターと何度もやり取りをしました。その時に、飼主が見つからずに保護された動物はどうなるのかが気になり、色々と調べてみました。もちろん、すべての動物を飼育するわけにはいかないので、仕方なく処分することになります。その方法に驚きました。集めた動物をガスで殺すというのです。ガスによって死に至るまでの時間は30分ほど。その間、動物たちは苦しみ続けるのではないでしょうか。注射器で薬品を注入すれば苦しまずにすみますが、それは費用がかかりすぎてしまう。そう考えたとき、これは人間社会に繋がるのではないかと感じました」

 動物と人間の繋がりとは?

「犬でもでも、飼主によって、その人生は大きく変わります。大きな愛情を注がれて、病気になれば、すぐに病院に連れて行ってもらえ、死んでしまった場合は、立派なお墓まで作ってもらえる。そういう幸せな犬がいる一方で、ガスで苦しみながら死んでいく犬もいる。動物の『生』一つをとっても、そこには格差社会があるのです。同じことを人間に置き換えてみると、そこには児童虐待の問題がある。どちらの場合でも、他人の痛みを自分のこととして考えることができるのか。もっと言えば、自分を愛することができるのかという問題に行き着きます。厳しい社会ですから、嫌なことも多いと思います。でも、どんなときも、自分を愛することができて初めて、他人を愛することができると思っています。『警視庁特別取締官』シリーズに登場する女刑事の美咲も、相棒である生物学者の晴人も、色々な悩みを抱えながらも、自分を信じ、周りに支えられ、他人の痛みを感じながら成長していきます。私は小説を通じて、現代社会が抱える問題を提起し、読者と一緒に考えていきたいと思っています」