この文書は、特定の番組を狙い撃ちにし、特定の放送内容に文句をつけ、しかも、会社宛てでなく、担当プロデューサー個人を狙っている点で異例中の異例。極めて悪質である。

 その悪意は後に自民党の思惑通りの結果をもたらした。

 この番組のプロデューサーは2015年3月27日の放送を最後に“更迭”された。その前日を最後にレギュラーコメンテーターの恵村順一郎氏も降板。そして、3月27日は、私の最後の報道ステーション出演の日だった。テレビ朝日は安倍政権の“軍門に下り”、報道ステーションでは翌年古舘伊知郎メインキャスターも降板となった。

 この一連の報道ステーション叩きの急先鋒役として自民党内で暗躍していたのが党報道局長の福井照氏だったわけだ。

●報道弾圧を利用して沖縄県知事選必勝を狙う安倍総理

 冒頭、福井氏には、特に消費者担当相としての資質がないことを紹介したが、私にはもっと心配なことがある。それは、福井氏が沖縄北方担当相として、沖縄基地問題をどう扱うかという点だ。

 ご承知のとおり、大きな選挙がない今年、安倍政権にとって最も重要な選挙は「沖縄県知事選」だ。2月の名護市長選挙で辺野古基地建設反対の稲嶺進市長(当時)に自民党候補が勝った。 今年11月の沖縄県知事選で翁長雄志知事を自民党候補が倒せば、普天間の辺野古への移転という安倍政権の重要課題の解決に道筋が見えてくる。

 今回の福井氏登用について、安倍総理は、「政策通だ。沖縄北方対策を強力に進めていく上で適任だ」と述べた。また、官邸周辺などは、「沖縄問題はデリケートなので役所出身で手堅い福井氏が選ばれた」という報道を新聞やテレビに流させている。

 しかし、本当のところは、“ マスコミ弾圧” で沖縄基地問題へのマスコミの批判を押さえて選挙戦を有利に導く。これが安倍政権の作戦だ。そのためには、多少の過去のスキャンダルにも目をつぶろう。それが今回の人選の本当の狙いではないだろうか。

 果たして、本土のメディアは、沈黙させられるのか。私たち国民は安倍政権だけでなく、大手メディアもしっかり監視しなければならない。

【参考 放送法抜粋】
第四条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

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古賀茂明

古賀茂明

古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。近著は『分断と凋落の日本』(日刊現代)など

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