また、「街角インタビュー」と言えば、TBSの「ニュース23」に出演した安倍首相が、街頭インタビューのVTRを見て、批判が目立つよう恣意的に編集したと決めつけて怒ったことを、テレビマンならすぐに思い出すだろう。

 つまり、この文書は一般論として言っているようでいて、実はテレビ局側に過去の事例を思い出させ、何をやってはいけないか、どんな人物を出演させてはいけないかを具体的に理解させる効果があるものなのだ。

●放送免許剥奪を連想させる言外の脅し

 さらに問題なのは、「過去においては、具体名は差し控えますが、あるテレビ局が政権交代実現を画策して偏向報道を行い、それを事実として認めて誇り、大きな社会問題となった事例も現実にあったところです」という部分だ。

 テレビ関係者であれば、これが何のことかはすぐにわかる。テレビ朝日の報道局長の発言が問題となり、国会で証人喚問まで行われた、いわゆる「椿事件」だ。この事件の際には、自民党などが放送法違反だという主張を展開。放送免許剥奪という議論まで出た。

 しかし結局、放送法違反の事実はなかったという総務省(当時、郵政省)の判断によって、免許剥奪には至らなかった。ということは、この文書で自民党が一方的に書いている「偏向報道を行い」という部分は、総務省が認めていないのだから事実とは言えない。にもかかわらず、文書においてこの事件を引用したのは、テレビ局が自民党の言うことを聞かなければ、「公平中立」「公正」な報道をしなかったと難癖をつけて、国会に呼びつけるぞ、政府には放送法上放送免許剥奪の権限があるのだぞと脅しをかける意味があってのことだろう。少なくとも、テレビ局側はそう受け取るし、文書を出した方もそれをわかっていたはずだ。

 こうしてみると、この文書発出は、政権与党としての禁じ手を使ってしまったと言っていい。明らかに憲法が保障している表現の自由への直接的な侵害行為であり、報道の自由への重大な挑戦である。同じことが他の先進国で起きたら、すべての報道機関から政府批判が起きるだろう。総理の側近がやったわけだから、単に萩生田氏や福井氏の辞任ではなく、政権そのものが揺らぐほどの大問題になるはずである。

 にもかかわらず、文書を受け取ったテレビ局や、それを知った他の報道機関の多くは、この事件を重大な問題として扱わなかった。とりわけ、テレビ局はこの文書をひたすら隠し通した。これを報道しようものなら、本当に局の存立にかかわるトラブルになる。そう恐れたのだ。安倍総理という虎の威を借りたとはいえ、萩生田・福井コンビの強権的な圧力をテレビ局が如何に恐れていたかがわかるというものだ。

次のページ