萩生田氏は、当時、自民党総裁特別補佐も務める安倍総理の側近、福井氏も自民党の報道局長、党のマスコミ対策責任者だ。つまりこの文書は、安倍晋三自民党総裁に代わって発出されたと受け取れる。現に 安倍総理も、表向きは自分自身の直接の関与を否定しつつも、その内容は問題ないとして、要請そのものを肯定している。

 文書の宛て先の一つである報道局長は、各テレビ局のニュース番組などを担当する責任者だが、編成局長は、報道番組だけでなく、バラエティやドラマ、音楽などあらゆる番組を含めて番組編成全体を統括する責任者だから、編成局長宛ての文書は、テレビ局内の全番組へのメッセージという意味を持つ。

 つまり、ニュース番組のキャスター、コメンテーター、スタッフだけではなく、それ以外のすべての番組関係者が直接・間接にこの文書の圧力を受けたということだ。現に、その後は、あらゆる番組で、政治ネタ、とりわけ安倍政権を直接批判するネタが極端に減り、朝のワイドショーでのコメンテーターの発言は異様なまでに与党批判を避ける形になってしまった

●「公平中立」の裏に隠されたテレビマンならわかる具体的な「命令」

 文書には、タイトルのとおり、これから選挙なのだから、「公平中立」と「公正」な放送を心がけるようにと書いてある。公平中立や公正は、抽象的レベルではあまり異論がないかもしれない。一般の人が見れば、当たり前だと感じるように書いてある。だがそこには、テレビ関係者ならわかる「本当の意味」が込められていた。

 この文書を一見して驚かされるのは、A41枚という短い文書の中に、「公平中立」、「公正」、「公平」という言葉が13回も繰り返し強調されていることだ。これだけしつこく言うからには、相当の“ 思い入れ” があるのだろう――受け取る側はそう思う。

 しかも、抽象的な要請だけでなく、「出演者の発言回数及び時間等」「ゲスト出演者等の選定」を公平中立にとか、「テーマについて特定の立場から特定政党出演者への意見の集中などがないよう」「街角インタビュー、資料映像等」が偏らないようにと具体例を挙げて、要請を行っている。

 こうした問題について、自民党安倍政権は以前からテレビ局に対してことあるごとに文句をつけていた。私自身も経験したが、ゲストコメンテーターの選定について、自民党の関係者が番組放送直後に政治部の記者などにクレームをつけているということを、多くのテレビ局の関係者から聞いている。

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