さて、収入が増えたことで注意しなければならないのが「税金」だ。JOCの報奨金は所得税法の規定で全額非課税となるが、各競技団体支給の報奨金の非課税枠は300万円まで。つまり、高木菜那は日本スケート連盟から支給される1000万円のうち、700万円が課税対象となる。金メダルを獲得した高木美帆、小平、羽生、女子団体追い抜きのメンバーも一部課税される。不断の努力の結果で得られた報奨金に税金をかけるのは薄情な気がするが、金メダリストたちは来年の確定申告に注意してほしい。

 お金の話は選手にとって切実だ。冬季競技を行う選手の台所事情は夏季より厳しく、特に女子選手が深刻だ。笹川スポーツ財団の「オリンピアンのキャリアに関する実態調査」(2016年1月)によると、冬季女性選手は競技を継続するためにかかる年間の費用は460万9千円。同じ冬季競技の男子の245万4千円と比べてもかなり高額だ。ちなみに夏季競技は男子が206万2千円、女子は250万7千円。オリンピックの時の盛り上がりだけではなく、継続的な支援が必要とされている。

 そのなかで、小平の活躍を支えた存在として、所属する相澤病院(長野県松本市)に注目が集まった。小平は、大学卒業後の所属先が見つからず、金銭面を含め競技の継続が不確かな状況にあった。そんな彼女に手を差し伸べたのが相澤病院だった。同病院は、小平を支援するために年間約1千万円超のサポートを続けてきたという。

 もちろん、企業や団体から支援を受けているのは小平だけではない。高木美帆は、2017年4月から日本体育大学の助手に就任。同大広報課は「競技に専念できるよう、大学をあげてサポートしている」という。メダルの報酬金については、金額は非公開だが「大学の内規に従って褒賞します」(広報課)と話す。

 高梨沙羅が所属するクラレは、競技活動の支援以外に、高梨の要望を受けてジュニアのジャンプ大会を開催している。冬季競技はオリンピック開催時は大きな注目を集めるが、人気を維持することが難しい。特に子供の競技人口の拡大が課題で、高梨とクラレはそこに目を向けた支援をしている。

 報奨金もありがたいが、選手にとっては相澤病院や日本電産サンキョーのような継続的な支援の方がありがたいかもしれない。メダルラッシュに沸いた後も、選手が安心して競技生活を続けるためにはどうすればいいのか。感動と興奮が冷めないうちに、あらためて議論が必要だ。(田中将介、AERA dot編集部・西岡千史)