寺脇氏が特に影響が大きかったと考えているのが、「完全週休2日制の導入」だ。1994年度生まれは、小学2年生から完全週休2日制になった(それまでの土曜休日は月2回)。スポーツの世界では9~12歳は「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、この時期の練習は運動能力を大きく伸ばすと言われている。寺脇氏は言う。

「70年代までの詰め込み教育は、スポーツや音楽などにすごい才能のある子供が、学校生活に縛られていた。それが完全週休2日制になったことで、一番才能が伸びる時期に学校に行く時間が減りました。基礎学力は大切ですが、知識は大人になってから学ぶこともできる。それよりも、子供の興味や関心、適性に合わせて好きなことに打ち込み、自ら学ぶことが大切。滅私奉公ではなく、それぞれの人が力を発揮できる力を身につけて『個人』を強くして、その結果として『公』も豊かにするというのが、ゆとり教育の理念でした」

 たしかに、一昔前のスポーツ選手と違って、今の若いアスリートは大きな大会でも「楽しむこと」を大切にする。ゆとり新入社員の再教育の指南書でも、「彼らには指示ではなく、納得させることが重要」と書かれていることが多い。前出の玉木氏は言う。

「ゆとり教育の影響なのかはわかりませんが、今の選手は、『このトレーニングでどこの筋肉が鍛えられ、それはパフォーマンスにどう影響が出るのか』ということまで考えている。一方で、監督が精神論で『腕立て伏せをやれ!』と命令するような、旧来の日本の体育会系練習法では世界では勝てないことははっきりしている。その認識が若い選手やコーチに広がっているのは間違いありません」

 ゆとり教育については、2007年の第一次安倍政権で見直しが叫ばれ、現在の授業時間数は約1割増えた。一部では、週休2日制の見直しを求める声も出ている。だが、寺脇氏はこう話す。

「授業時間はたしかに増えましたが、ゆとり教育で導入された教育理念は基本的に変わっていません。最近では学ぶ側が討論や体験などを通じて学習する『アクティブ・ラーニング』の重要性が言われていて、これはゆとり教育の進化系のようなもので、目指す方向性は同じです。世界を驚かせる若者は、これからも出てくるのではないでしょうか」

 これまでいわれなき批判を受けてきた「ゆとり世代」。年上世代が「今どきの若者は……」などとうっかり口をすべらせると、世界を相手に戦う後輩に「今どきの中年はねぇ」と理路整然と論破される日も近いかもしれない。(AERA dot.編集部・西岡千史)