「通り魔に…」という希望と「楽しんでいる大人に出会いたい」という希望は、言葉のうえだけでは正反対にさえ聞こえます。でも根っこでは同じことを言っているのです。

 見ず知らずの誰かによって人生がすべて決められているなら「通り魔が早く殺してくれ」と思う。しかし、もしも自分の手によって人生を切り開いている人がいるならば、その人に会ってみたい。それができたら、自分自身の手によって人生を始め直したい。

 そんな思いがあるのでしょう。「通り魔に…」という言葉の裏返しが、「楽しんでいる大人に出会いたい」なのです。

 当事者の話は、いつでも多くのことを気付かせてくれます。彼が今よりもましな環境に出会えることを願いつつ「すくなくとも、その病んでいる学校は抜け出してよかったよ」と伝え、彼を見送ることにしました。

 彼は「今日はありがとうございます、こんな会社があるんですね」と、笑顔で帰っていきました。弾むように帰っていった背中を見ると、きっと彼は大丈夫だろうと思います。

■不安な子に出会ったら守るべきこと

 座間事件によって「#自殺希望」が注目を集めました。いじめも過去最多、不登校も過去最多の割合を更新しました。これからは、彼のように「不安な発言」をくり返す10代と出会う機会が、多くの人にとっても増えていくかもしれません。そこで「不安な発言」をする子と出会ったとき、どうするかを書いて終わりにします。

 結論から言えば「不安なときほど後日対応」です。

 多くの不登校当事者、経験者、親、支援者、専門家からたくさんの話を聞いてきた私なりの結論です。

 10代から不安な発言を聞くと、周囲は、その日その場で解決しようと焦って提案します。しかし、それこそがNGです。本人は気持ちの整理をつけるためだけに話していることもあり、提案しても行き違ってしまうことがあります。また「よかれ」と思って提案をしたつもりが、自分の不安を相手にぶつけていただけなんてことも、よくあることです。「提案」ほど難しいものはありません。

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