ここまで挙げた選手は全員が日米通算記録である。日本球界だけでの現役勝利数を見てみると石川雅紀(ヤクルト・38歳・156勝)、杉内俊哉(巨人・38歳・142勝)、内海哲也(巨人・36歳・128勝)、和田毅(ソフトバンク・37歳・126勝)という順になった(※和田はMLBで5勝で日米通算では131勝)。石川と和田は大学卒、杉内と内海は高校から社会人を経由してのプロ入りであり、メジャーで活躍している選手とは対照的な結果となった。そして全員がサウスポーであるというのも共通点である。

 ちなみに5位から10位を見ても高校卒は涌井秀章(ロッテ・32歳・123勝)と松坂だけで、10人中8人は大学、社会人経由でプロ入りした選手であった。年齢と昨年のプレーぶりを考えると彼らの中から200勝投手が誕生するのは難しい状況ではあるが、そんな中でも可能性があるとしたら石川ではないだろうか。キャリアハイは2009年、2010年、そして2015年の13勝だが、プロ入り後16年間で二桁勝利は11回をマーク。過去2年間は8勝、4勝に終わっているが、大きな故障があるわけではなくローテーションを守り続けているのは頼もしい限りである。

 そしてその投球スタイルも若い頃からスピードに頼ったものではなく、コーナーワークを武器に繊細かつ大胆なものであるため年齢的な衰えが出づらいものになっている。この点は現在最後のNPBのみでの200勝投手である山本昌に通じるものである。また、投手陣に故障者が多いというチーム事情と、功労者には温かいヤクルトの体質も石川にとっては追い風になるはずだ。

 200勝に近い現役選手の傾向をまとめると、今後200勝を達成するためには二つのタイプに分かれることになりそうだ。一つ目は高校卒で早くから先発ローテーション入りし、海を渡って日米通算で達成するケース。これはメジャーが好むようなストレートに力のある本格派タイプが多くなるだろう。もう一つは大学、社会人経由でプロ入りするか高校卒でもローテーション入りに時間がかかり、主戦になった時にはアメリカで大きな契約を結ぶ可能性が低いケース。

 投手としてのタイプでは先述した石川のように、スピードには乏しい技巧派が多くなるだろう。どちらにせよ簡単な道ではないが分業制が進み、また打者優位と言われる現代の野球においても200勝という偉業が不可能ではないことを示してくれる投手がいることは確かである。山本昌、黒田に続く偉業へ。ここで挙げた選手が最後のひと踏ん張りを見せてくれることを期待したい。(文・西尾典文)

●プロフィール
西尾典文
1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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