小心者ですが、おっかなびっくりでも、できる限り後者を選びたいと思います。たとえば相手が大物でも突っ込んでみたり、相手の意表を突くようなことを言ってみたり。たしかに勇気がいりますが、そうすることで会話の道が開けて、気難しそうだった人が笑ってくれたり、思いもよらない本音を言ってくれることもあります。その日の会話を象徴するようなコメントが返ってきたときには、思い切って言って良かったと思います。勇気を出したときにこそ、うれしい「会話のおまけ」が降ってくるのです。

 ところが、準備不足で余裕がなかったり焦ったりすると、どうしても確実なルートを選んでしまうものです。「はい」「そうですね」と無難な相槌に終始したり、すでによく知られているような話しかできなかったり。確実なルートを選んでも間違いではないのですが、出会いの記憶に残るような「会話のおまけ」はもらえません。

 そんな日は、帰り道で会話を反芻しながら、「なぜ思い切って別の話題を振れなかったの!?」「意気地なし!」と、情けない思いが蘇ってきて、「ハアー」と大きなため息をつきそうになります。

 とはいえ、悶々とした気持ちを引きずってもいいことはありません。いつまでもモヤモヤしているぐらいなら、全部ノートに吐き出してしまおう。そして、次へ向けての糧にしよう。そんな気持ちでこの秘密のノートをつけるようになりました。

 何冊になるか自分でも数え切れませんが、仕事歴と同じだけの歴史があるので、もうかなりの冊数になります。私がこれまでに重ねてきた、トークについてのありとあらゆる失敗の見本帳と言えるかもしれません。

 でも、泣きながら書いた文字を今になって読み返してみると、笑い話のようなネタもあります。失敗したら、「モトを取ってやろう!」と、紙に書くなり、パソコンにメモしておくなり、自分から放出して、俯瞰して、エネルギーに変えること。これを意識するだけで、ミスして落ち込む度合いも軽くなりました。心の掃除にもなるのです。

「言えなかった」という過去の悔しい気持ちが、現場で「もうひと押し!」と勇気を与えてくれます。ただ、自分の心の叫びが書かれた機密事項満載のノートです。他人の目にふれないよう、くれぐれも管理には細心の注意を払ってくださいね。