ファースト・アルバムから3作目『レイト・フォー・ザ・スカイ』までのテーマを僕は、かなり大雑把にいうと、「旅」「出会い」「別離の予感」といった感じで受け止めてきた。一つ物語と呼んでもいい。ただし、日本で一般的にいわれている私小説ではなく、多くの人が自分の暮らしや想いを重ねられるものだった。実際、ジャクソンが書いて歌った曲の多くは、長い時間の流れのなかでまさに普遍的なものとして愛されるようになり、そして、世代を超えて聴き継がれてきたのだ。

 1974年に買ったアメリカ盤には、歌詞カードが添えられていなかった。国内盤の事情は知らないが、「だからこそ」というべきか、とりわけサイド1の4曲は耳だけを頼りに何度も、何度も聴き、饒舌な言葉をなんとか理解しようとした。

“Such an empty surprise” “a trace of sorrow in your eyes” など、なんでもないときにふっと浮かんでくるフレーズも少なくない。歌詞に関して補足すると、正式な形でアルバムに添えられたのは、2014版のCDがはじめて。最新のアナログ盤にも同じ書体で印刷されていて、しばらくそれを片手に聴きつづけることになりそうだ。

“early model Chevrolet” というフレーズが登場する「ザ・レイト・ショウ」の歌詞をそのまま映像化したようなカヴァーのデザイン・コンセプトは、ジャクソン本人。ただし、クレジットの最後には “if it’s all reet with Magritte” というただし書きがある。 Reetは Rightの意味らしく、つまり「マグリットが許してくれるなら」ということ。そう、モノクロの写真にティンティングを施したような手触りのこのジャケットは、マグリットの名作「光の帝国」からヒントを得たものだったのだ。アナログ盤では、その重要なただし書きも大きな文字でしっかりと確認できるはず。

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