「本当に青天井といっても、会社がつぶれるような金額にはならないし、歯止めは掛かる。必要な選手には必要なマーケットプライスがあり、それを提示するのは当然」(同インタビューからの抜粋)

 日本一という企業目標を達成するために、「選手という商品」に対して大型投資を行い、そのリターンをきっちりと確保している。その成果に対して「カネがあるからできる」と非難したり、「金満」と揶揄したりするのは単なる周囲のやっかみであり、筋違いの話でもある。かつてのように、親会社がカネを投入して選手を買い漁るようなことをしたわけでもない。昨年3月に発表された球団の決算では、売上高278億2800万円で、純利益は12億8100万円。これだけの投資を行っても、球団は文句なしの黒字経営なのだ。

 こうした“好循環”から証明されるように、ドームを自己保有にしたメリットは非常に大きい。外野席の「ホームランテラス」や、一、三塁側の「フィールドシート」で座席数を増やすことも球団の一存で可能になる。企業の接待などに使える「スーパーボックス」も充実させ、試合観戦での客1人当たりの単価も上げ、全体的な売り上げを伸ばす。自前の球場ゆえに、球場内の物販や広告収入も球団にすべて入ってくる。ドームを自己保有することで生まれた、球団経営上の“好循環”。その利益を選手に還元、投資していくことで新たな客を呼び、さらなる利益を生む。これらは、ごく当たり前の経営戦略でもある。

 日本ハムが昨年、北海道に自前の球場を建てる計画を発表したのも、市や地元企業による第三セクターで経営する札幌ドームでは、座席数を増やすための改修も球団の判断だけではできず、ドーム内の広告収入なども得られないというデメリットに、高騰するドームの使用料が重なったことにある。またDeNAも、一昨年に横浜スタジアムを運営する会社から約76%の株式を取得した。楽天も、宮城球場を年5000万円で使用している代わりに、改装や建て替えはすべて自社の負担で行っている。物品販売や広告看板、席の増設などを球団の経営戦略の中に組み入れ、球団の一存で行えるメリットは計り知れないものがあるのだ。

 勝つために、そして客を球場に呼ぶためには、魅力ある選手が必要になる。そのための資金を捻出するために、何をすべきなのか。プロ野球のビジネスにおいて、球団経営と球場経営の一体化はその1つのカギを握っていることは間違いない。他球団の倍以上とも言える「60億円超」という年俸総額。その金額の多寡ばかりが騒がれがちだが、日本一という『投資に見合った答え』を2年に一度の割合で出しているという成果が、大型投資の“正しさ”を証明している。

 ソフトバンクの現状はパーフェクトとはいえないかもしれない。だが、他の11球団がソフトバンクのような「経営上の好循環」を生み出し、予算規模や経済状況に応じた投資ができるだけの環境を早急に整えなければ、チームの強さでも、選手への待遇でも、球団の経営戦略でも、ソフトバンクとの「格差」はしばらく埋まらないのかもしれない。(文・喜瀬雅則)

●プロフィール
喜瀬雅則
1967年、神戸生まれの神戸育ち。関西学院大卒。サンケイスポーツ~産経新聞で野球担当22年。その間、阪神、近鉄、オリックス中日、ソフトバンク、アマ野球の担当を歴任。産経夕刊の連載「独立リーグの現状」で2011年度ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。2016年1月、独立L高知のユニークな球団戦略を描いた初著書「牛を飼う球団」(小学館)出版。産経新聞社退社後の2017年8月からフリーのスポーツライターとして野球取材をメーンに活動中。