このあと二人のドラマーがリヴォンの抜けた穴を埋め、すでに書いたとおり、2月4日に1966年のワールド・ツアーがスタートする。24歳のディランは並行して大作『ブロンド・オン・ブロンド』の録音にも取り組んでいて、創造力爆発状態だったのだと思うが、3月に3人目のドラマー、ミッキー・ジョーンズが加わったありたからようやく歯車が気持ちよく噛みあうようになる。

 そして、4月には豪州をへてヨーロッパに向かい、5月末のロイヤル・アルバート・ホール公演で長期のツアーを締めくくったのだった。『Testimony』では、ビートルズの4人がロンドン滞在中の彼らをホテルに訪ね、まだ発売前だった『リヴォルヴァー』のテスト盤を聞かせたという、読んでいるだけで興奮してしまうような逸話も紹介されている。もちろん彼らはロイヤル・アルバート・ホール公演も観たようだ。

 『ザ・1966ライヴ・レコーディングス』に収められているのは、4月から5月にかけて録音された音源。前半はディラン一人、後半はエレクトリック・セットという構成が貫かれたようだが、とりわけ後半の力強く、そしてラウドな演奏には圧倒される。しかも、ワン・ステージ30分から45分が一般的だったといわれるあの時代に、彼らは連日、約2時間のライヴを聞かせているのだ。ディランより2歳下のロビー・ロバートソンは、『Testimony』で、ツアー終了時の心境を「僕らはともに戦い、そして勝利した」と書いている。(音楽ライター・大友博)

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大友博

大友博

大友博(おおともひろし)1953年東京都生まれ。早大卒。音楽ライター。会社員、雑誌編集者をへて84年からフリー。米英のロック、ブルース音楽を中心に執筆。並行して洋楽関連番組の構成も担当。ニール・ヤングには『グリーンデイル』映画版完成後、LAでインタビューしている。著書に、『エリック・クラプトン』(光文社新書)、『この50枚から始めるロック入門』(西田浩ほかとの共編著、中公新書ラクレ)など。dot.内の「Music Street」で現在「ディラン名盤20選」を連載中

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