錦織が最も自信を持つフォアのショットに本来の伸びがないため、なかなか流れを変えられない。また、練習再開時に「一番怖い」と言っていたサーブ……特にスピンサーブへの不安は隠しきれず、ダブルフォルトも7本を数えた。フルセットを戦って、両者の総獲得ポイント数は174対174の五分。それだけに勝敗を分けた要素とは、まさに「試合勘」や、重要な局面でのショットの精度にあったろう。

 3-6,6-3,4-6のスコアで終わった復帰戦が明らかにしたことは、たとえケガそのものは治ったとしても、ボールを打てなかった間に失ったものを取り戻すには、当然、時間が必要だという現実だ。

 明るいニュースとしては、1時間47分に及ぶフルセットの接戦を最後まで戦いきった点。錦織のマネージャーによれば「もちろんテニスの腕前は少しさびついてしまったが、痛みなく試合を戦うという最大の目的は達成できた」ということで、試合の翌日には次の大会に向け練習を行った。また次に出場するダラス・チャレンジャーの会場では、世界16位のビッグサーバー、ジョン・イズナー相手に良い練習ができたという。
 
 南半球では、7カ月の離脱から復帰してきたジョコビッチが未だ肘に痛みを覚え、「これだけ休んだのに、まだ治らないことに落胆している」と顔をしかめた。膝の手術から復帰したスタン・ワウリンカも、「準備が不十分」な状態で全豪に出場し、2回戦で敗れた。一方、マリーは全豪開幕前に臀部の痛みがぶり返し、手術を受けるという苦渋の決断を下した。

 復帰への道が長く険しいのは、いずれの選手にとっても同様だ。そのなかで錦織は、まずはスタートラインに立ち、次に続く一歩を踏み出した。その一歩があればこそ、失った物を取り戻すための戦いへも、またすぐに向かっていける。(文・内田暁)