復帰初戦には敗れた錦織(写真:Getty images)
復帰初戦には敗れた錦織(写真:Getty images)

 1月29日に米国ダラスで行われた復帰2戦目で勝利を収めた錦織圭。復帰戦で敗れた相手デニス・ノビコフをストレートで下し見事リベンジを果たしたが、初戦を見る限り復活へ向けての道のりは決して平坦ではない。

 真夏のメルボルンで、世界最高峰の選手たちが熱い戦いを繰り広げているその時、錦織圭は米国カリフォルニア州の温暖な町で、復帰戦のコートに立っていた。

 昨年8月、サーブの練習中に手首の腱を損傷してから、約6カ月。手術を回避して保存治療とリハビリに専念し、「自分が、この手首が100%だと思えたら戻るだけ」と定めていたその日が、1月23日に訪れた。出場大会のグレードは、ATPツアーの下部に属する“チャレンジャー”。「まだ5セットを戦える状態ではない」として見送った全豪オープンと同じ週に、マイケル・チャンコーチの地元のテニスクラブで開催された、今季新設の大会である。

 昨年末の錦織は、復帰時期を問う声に対し「焦りたくない」の言葉を繰り返していた。過去に重ねた経験から、痛みや不安を抱えたまま戦うことの危険性を、彼は良く知っている。また他の選手に目を向けても、ノバク・ジョコビッチやアンディ・マリーら多くのトッププレーヤーが、昨年の中盤以降はケガの治療に専念すべくツアーを離れた。膝の手術から完全復帰を果たしたフェデラーに倣い、長期離脱してでも完治を優先させる動きは、ツアー全体の潮流となる。前十字靭帯断裂の大ケガから9カ月ぶりに復帰した西岡良仁も「最近は、治るまで休んで準備し、また活躍している選手が多い。僕もしっかり休んで100%になってから出ると決めていたし、今、錦織選手もそれをやっていると思う」と、周囲の動向も踏まえて語っていた。

 その意味では錦織も、手首のケガの回復という意味においては、万全に近い状態でコートに戻ってきただろう。ただ、いかに豊富な経験と実績を持つ選手でも、長く実戦の空気から離れた後では「試合勘」や「打った時のフィーリング」の欠如を口にする。ましてや復帰戦で対戦したデニス・ノビコフは、193cmの長身から打ち下ろすサーブを武器とするパワープレーヤー。粗さもあるが、一発で仕留める強打も持つかつての全米ジュニアチャンピオンの前に、錦織はリズムが掴めず、打ち合いでも守勢に回る場面が目立った。

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試合で不安は隠しきれずも明るい要素は…