日本スケート連盟と、土屋医師が勤める船橋整形外科病院が16年秋に選手321人に行ったアンケートによれば、7割の選手が、過去に休むくらいの外傷を負ったことがあると答えた。

「多いのは疲労骨折と足関節捻挫。膝回りの使い過ぎが原因のジャンパー膝(膝蓋腱炎)や、肩の脱臼もしばしば見られる外傷です。フィギュアの場合、コーチの指導を受けるのはリンクの上。そのためウォーミングアップやクールダウンのできていない選手が多かったんですね。そうした基礎を改善するため、16年から全国巡回でのベースアップ講習会も始めました」

 土屋医師がスポーツドクターを志したのは学生時代。ラグビーでケガをしたことがきっかけだった。そのころはケガをしたら選手生命は終わりとされていたが、ひとり、「適度な運動はしたほうがいい」と言ってくれた整形外科医がいた。

「彼が後に私の恩師となりました」

 膝関節、足関節、股関節の専門家として、今では年間300件の関節鏡視下手術を行う。自身が勉強したこの手術法により低侵襲な治療が可能になった。

「スポーツ整形がほかと違うのは、『痛いけどやりたい』というアスリートの気持ちをわかってあげられるかどうか。ジャンプはだめだけど、スケーティングはいいよなどという指示を出せるかどうかです。昨年、疲労骨折をした宮原知子選手も、それでかえってスケーティング技術が磨かれたともいわれています。ともに可能性を見いだすことが大事なのではないでしょうか」

土屋明弘/整形外科医。長野県出身。1981年千葉大学医学部卒業後、同大整形外科入局。91年ハーバード大学に留学。2002年船橋整形外科病院スポーツ医学センターに移り、その後、同病院副院長に。09年日本スケート連盟強化部員。ソチ五輪でのフィギュアスケート村外合宿の日本チーム帯同ドクターを務める

(文/志賀佳織)

※『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』から抜粋