■36歳を過ぎた社畜は量産型ザクに成り果てる

山本:コップの中の水の量は人間誰しもほぼ一緒。それを傾けてどこに深みを出すかでしかない。20代のうちに安い給料でこき使われて、この会社で上をめざせないんじゃないか、自分の培ってきたスキルセットはどこからもピックされるものではないんじゃないかと気づいた時は、結婚して子どもがいたり、親が具合悪かったり、自分も働き詰めの無理がたたって身体が悪かったり。「しまった」と思って相談するころには遅くて、「このまま会社にいたほうがいい」「今の仕事を終わらせないと無責任」と言われて、決断を遅らせに遅らせた結果、転職市場で売れる33~36歳までワンチャンしか残っていないんですよ。このビッグウェーブに乗れた人だけがステップアップ転職できるけど、それ以外は社畜の道を歩んでいく。会社にしがみつくしかない勤め人人生は悲惨に見えます。その意味では、日本人の働き方は二極分化していると思いますね。

村上:二極化する前の、まだ取り返しがつく若者に対して、僕は警鐘を鳴らしたいんですよね。

山本:「会社が居場所だから」という人もおられます。なんなんですかね、その志の低さ。気持ちはとても、とても分かるけど。「仕事を全部終えて、缶コーヒーをデスクで飲んでいるときがいちばん幸せ」と言っているやつがいて、首締めようかと思いましたよ。そういう人たちが組織の良いところにいる会社が、村上さんみたいな生き方をしている人をどう評価するのかって目線は必要じゃないかと感じるんですよね。

村上:それはもう、日本企業が率先して量産してきた典型的な社畜像なんでしょうね。自由市場に打って出ることができなかった人材は、ガンダムでいうところの「量産型ザク」に成り果ててしまうわけです。

山本:同じサラリーマンでも、「自分はザクだ」と思って暮らすのと、「自由な世界にリーチできるけど、今は条件が整わないから色々準備中」と思って暮らすのと、どちらがより幸福か考えたほうがいいとは思いますね。

村上:ザクはザクでも、「シャア専用ザク」を目指した方が、人生豊かになると僕は思うんです。ガンダムの斬られ役として一生過ごすのか、1機でも十分主役をはれるモビルスーツを目指すのか、人生の根幹に関わる選択だと思います。

(取材・構成/安楽由紀子)

村上アシシ/1977年札幌生まれ。ITコンサルタント・プロサポーター。東京理科大学卒業後、外資系コンサルティング会社のアクセンチュアに入社。2006年に個人コンサルタントとして独立以降、半年で1年分稼いで、残りの半年を旅して暮らす「半年仕事・半年旅人」のライフスタイルを確立し、継続している。最新刊『半年だけ働く。』(朝日新聞出版)

山本一郎/1973年東京都生まれ。著作家、ブロガー、投資家、経営者。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。2000年IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作を行うイレギュラーズアンドパートナーズ株式会社を設立。近著に『読書で賢く生きる。』(共著、ベスト新書)