「I have no idea. But there are many whores around here.」(知らない。でも、このあたりに売春婦は多いと思う)

「Do they go to the hotel after joining?」(車で近くにあるホテルに行くの?)

「They don't need a motel.」(そんなことはしないだろ)

「Why? Where?」(じゃあ、どこで?)

「Look there.」(アレを見ろ)

 友人の指さす方向には1台の車が止まっている。

「There is a trick in the car.」(客はあそこにいる)

「Why do you think so?」(どうしてそう思うの?)

「Because the car is shaking now.」(だって、揺れているだろ)

 そう言って、爆笑する友人。どうやら笑うところだったようだ。アメリカンジョークかと思って流そうと思っていたのだが、あとから説明されたところによると、売春婦たちはどこかの建物ではなく、本当に車内でプレイをするのが一般的だという。それは、殺人や暴力を避けるための彼女たちなりの自衛の手段でもあるようだ。ちなみに地元のスラングで売春婦の客のことはtrickということもこのとき同時に学ぶことができた。

 港湾エリアの外れの倉庫街。そんなところに立っている女性たちは、薬物中毒に陥っているケースが多いそうだ。そして、裏風俗のランクとしてもニューヨークでは底辺に位置すると友人は教えてくれた。単に売春だけを都市の闇というのは大げさかもしれないが、そこに薬物が絡んでくると、やはり闇という表現を使わざるを得ない。

 巨大都市ニューヨークの売春事情の一端ではあるが、このようなことが本当に起きているのは紛れもない事実である。旅行では目に入らない場所にも都市の闇というものは隠されているのだ。

(文/ジャーナリスト・丸山ゴンザレス、イラスト/majocco)

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丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス

丸山ゴンザレス/1977年、宮城県出身。考古学者崩れのジャーナリスト。國學院大學大学院修了。出版社勤務を経て独立し、現在は世界各地で危険地帯や裏社会の取材を続ける。國學院大學学術資料センター共同研究員。著書に『世界の危険思想 悪いやつらの頭の中』(光文社新書)など。

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