打つ、守る、走るの三拍子。何しろ東北大会の決勝戦でサイクルヒットだ。円陣でチームに指示を飛ばし、まず自分がやってみせてしまう。神がかっているように感じた。地方大会前に書いた宮城県版の高校野球連載の内容で嫌な思いをさせたときも、志田君は少しすると、何事もなかったかのように自分に寄ってきてくれた。

 WBCでは、スコアブックらしきものを手にした彼がベンチで仲間にすーっと寄り添う姿を何度か見た。その姿が、かつてと重なった。

 甲子園出場、大学野球の名門、青山学院大からプロ野球ヤクルトへ。彼は日の当たる道を歩んできた。そして現役を引退した今もなお、チームの勝利を支える「縁の下の力持ち」として、この世界に生きていた。

 彼がどれほどの男か。しばらく夢中で配偶者にしゃべり続けた。一息ついたとき、思わずつぶやいていた。

「おれもがんばろう」

 配偶者が、えっという顔をした。

「がんばる」は重い言葉だ。それを言わせる力が彼にはあった。

  ◇
 さて、「がんばる」といえば「選挙」だ。自民党がかつてない負け方をしたこの東京都議選もそうだが、名前に続いて連呼される「がんばります」を何度聞いたことか。

 軽すぎると思っても、社会のこれからを託す身とすれば、その言葉を守ってもらうよりない。

 だから心の中で、こう呼びかける。

 本当に、本当にがんばれよ。

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野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

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