同感だ。記事にせよ、個人的な会話にせよ、同じ考え方の者同士でそれを内々に確かめあっても、外側との溝は縮まらない。なのに自分はつらいからと、一歩目を踏み出さずに社会への窓を狭めてしまっていた。

「弱いほう」の視点という発想。それがそもそも思い上がりだったのかもしれない。病気になったから表に出てきただけで、不安を抱える各地の人たちと同じ弱さは、どちらかといえば「強いほう」にくくられると思っていた自分の中にもともとあったのだと思う。

 何度目かの入院をしたとき、慶大経済学部教授の井手英策氏が昨年出した「18歳からの格差論」を読んだ。私と同年生まれの井手氏は、「5年前」に生死の境をさまよった、と明かす。

 もし、もう一度倒れたら3人の幼い子どもたちはどうなるか。「この社会は、きっと、僕の家族が人間らしく安心して生きていくための十分な手助けをしてくれない」として、格差を作り出した人間の心の動きや歴史的背景を解き明かし、それを是正するための具体論を展開していく。

 3月の民進党大会での氏の講演は、動画投稿サイトのユーチューブでみることができる。体験に裏付けられた言葉は力強く、会場から拍手がわいた。

「弱さ」は場合によって、これまでになかった視点へと目を開かせ、生かし方によって大きな力にもなる。そんなことに気づかされる春である。

著者プロフィールを見る
野上祐

野上祐

野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、翌月手術。現在は闘病中

野上祐の記事一覧はこちら