天才外科医、大門を陰で育ててきた新村医師だが、自身が医師を目指したきっかけは小学生のときだった。祖父が脳卒中で倒れた際、手術を担当した脳外科医の表情が生き生きとしているように見えた。その姿が、いまも心に残っている。同じ頃に読み始めたのが、手塚治虫の漫画「ブラック・ジャック」。ストーリーを空で言えるほど、何度もくり返し読み込んだ。

 臨床をしながらドラマの監修をする理由を尋ねると、「単純に、ものを作り上げるのが楽しい」と笑みをこぼす。

「ドラマや漫画がなんらかの影響を与えて、その中の何パーセントが実際に医学部に入るかはわからないんですけど、『ドクターX』に影響を受けたなんて人が出たらうれしいですよね」

■「非常識」の先にある、純粋な医療目線

 2000年以降をみても「白い巨塔」や「救命救急24時」「Dr.コトー診療所」「コード・ブルー」など、視聴率の「記録」だけでなく、名せりふなどが「記憶」にも残る医療ドラマは数多くある。

 とりわけ、「ドクターX」大門未知子の名せりふ、「私、失敗しないので」「いたしません」は、フリーランスというしがらみのない立場から、「医師」としての理想を貫いていく姿を表している。新村医師も「言ってみたいですね」と笑い、こう続ける。

「非常識だが、その先には医療に純粋に向き合う姿がある。今の医療制度では難しいですが、フリーランス医師が真価を発揮できる場があるべきだと思っています。報酬額が法外なのは、あのブラック・ジャックも同じですからね」

(文/井艸恵美)

※『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』から抜粋